Empathy

照りつける真昼の太陽は、容赦なく肌を焼く。
それでも陽射しを避けることをせず、手塚は黙って校舎の屋上から、テニスコートを見下ろしていた。
時折吹く風が髪を揺らし、少し鬱陶しい。
そろそろ切る頃合かと考えたとき、背後で鉄の扉の開く音がした。

振り返る必要はない。
独特の気配で、わかる。
近づいてくる足音は、まっすぐに手塚へと向かっている。

「手塚」
「なんだ」
顔も見ずに答えた。
乾はそれを気にした風もなく隣りに立ち、手塚に倣って、今は誰もいないテニスコートを見た。
目線だけで乾を見ると、僅かに口許が笑っている。

「越前に、時間や距離を共有する必要はないって言ったんだって?」
「どうして知っているんだ」
眉間に皺が寄るのが、自分でもわかった。
「俺の情報網を甘く見ないで欲しいね」
首を捻って手塚を見てから、乾は、くすりと小さく笑った。
手塚は、もう一度視線を遠くに逃がす。

「…語尾が少し違うが、近いことを言ったのは確かだ」
「それは、実体験から出た言葉?」
いちいち顔を見なくても、乾が笑っているのが声でわかった。

「手塚がいない間、俺もそう思っていたよ」
返事をしない手塚につきあって、しばらく黙っていた乾が、口を開いた。

「今ここにいなくても、手塚とはちゃんと繋がってる」
顔を上げると、乾と目が合った。
「手塚もそう思ってくれているってことも信じてた」

柔らかく微笑む顔は、とても静かだ。。
だから、少し油断していたのかもしれない。


「でも手塚が帰ってきたら、よくわかったよ」
「何が?」
「やっぱり、手塚が傍にいるほうが、ずっといい」
穏やかだった顔が、一瞬で何かを仕掛けるような表情に変わった。

「手を伸ばせば、すぐ触れる距離がいい」
伸ばされた手に肩が捕まえられて、視界がふっと暗くなる。
気づいたときにはもう、唇が塞がれていた。

「そう思うだろ?」
唇を離した後でにやりと笑う顔が矢鱈と嬉しそうだったので、手塚は怒るタイミングを逸してしまった。
そのままにするのも癪に障るので、今度はこっちからキスしてやろうと乾の腕を掴んだ。

唇が触れそうになる瞬間に、どっちにしろこれでは乾を喜ばせるだけだということに気づいたが、もう止まることは出来なくて──。
手塚は、観念して目を閉じた。

2005.02.09

アニプリを見ての突発書き。
手塚の「時間や場所を共有しなくていい」という台詞でむらむらと妄想が膨らんだわけです。乾と離れている間、自分にそう言い聞かせていたのかなあと。
萌えるなあ…。