不眠症
元々寝つきは悪い方ではない。乾は、毎晩倒れるように眠りにつく。
当たり前だ。
毎日の部活に、ハードな自主トレ。
そのあとに、は溜まったデータの整理と分析。
成績が下がると色々面倒なので、それなりに勉強もする。
ネットの徘徊もするし、ビデオのチェックにも忙しい。
ようするにやることがありすぎて、睡眠時間はいつもギリギリ。
慢性的な寝不足と言える。
そんな生活に不眠なんていうのは全く無縁のことで、できるものならば、いつまでも寝ていたいくらいだ。
それでもたまには、「眠れない夜」がある。
一人っ子の核家族。
しかも両親が留守がちで、小さな頃から典型的なかぎっ子だった。
一晩中誰かがそばにいることに、自分は慣れてないのだ。
初めて手塚が泊まっていった日。
あの夜、乾は一睡も出来なかった。
初めて見る手塚の寝顔を、飽きずに朝まで眺めていた。
あんな至近距離で手塚の顔を見たことは、それまでにはなかったから。
驚くほど長い睫毛。
きめの細かい肌。
細い鼻梁と薄い唇。
なんだか血が通った人間に思えなくて、何度も息をしているか、耳を近づけて確かめてみた。
眠気なんかはどこかに飛んでいってしまって、夜が明けるまでの時間を、ひたすら手塚を見つめていた。
あんな時間はもう、どうやっても味わえないだろう。
それから、何度も手塚と夜を過ごした。
最初は別々に寝ていたのが、今では乾のベッドで一緒に眠るようになり、時には裸のままで、自分の腕に手塚を抱いて朝を迎える。
そんなことも珍しくない。
それでも時々眠れなくなる。
今、目の前にいるのは誰だろう?
本当にこれは手塚なのだろうか?
なぜ、手塚がここにいるのだろう?
疑問だらけで、落ち着かなくなる。
数え切れないほどのキスを交わしても、壊れるくらい強く抱きしめても、これは何かの冗談なんじゃないか。
そう思えてくる。
白い肌にうっすらと疲労を浮かべて眠るその顔が、あまりに痛々しくて。
いつも見ている、昼間の手塚と違いすぎて不安になる。
それでも。
乾に身体を預けて眠る手塚を起こさないように、寝返りを打たないでいることにも我慢できる自分に気づく。
そして、そんな苦労も知らずに、熟睡している手塚をちょっと恨めしく思いながら、滑らかな額に口付けを落とす。
手塚は眠ったまま、うるさそうに顔を背けた。
…冷たいね
声を押し殺して笑いながら、それでも自分の腰に回されたままの手塚の腕の重さを感じている。
その確かな暖かさから生まれてくるのはよどみなく湧き上がる愛情の破片。
眠れない夜にふさわしい、胸の奥に疼く小さな欠片。
2003.10.29
基本的に2人とも寝つきはいいんじゃないかと思う。あれだけ昼間動いてたら、相当疲れるだろうし。で、自分設定では手塚は乾の部屋に来るとやたらとよく寝る人。乾は人がいると寝られないタイプだと、ちょっと可愛い。特に相手が手塚だと、よけい寝られないといいなあ、萌えるなあ。
で、手塚は起きてるときは冷たいけど、寝てるときはちょっと甘えっ子(は?)だと可愛いねー。ま、そんな感じで書いてみました。