乾の野望1
手塚がパソコンを入手して以来、ことあるごとに手塚にメールを出すのが、俺の新たな習慣になった。手塚に会えなかった日は当然のこと、たとえ顔を見られても、ろくに話を出来なかった日は必ず長いメールを出す。
本当は最初のうち、毎日熱のこもったメールを出していたのだが、「いい加減にしろ」と本気で怒られたので、これくらいで我慢してるのだ。
言いたいことなら、いくらでもあるのに。
そこのところを手塚も、もうちょっとわかってくれると嬉しいのだが。
──ま、手塚だしな。
それでも、生来の真面目な性格のお陰で、必ず返事をよこすのが、あいつらしい。
そういうところが、ものすごーく可愛い。
と、言ったら利き手で殴られたが。
手塚はパソコンの扱いは、あまり得意ではないようだ。
授業で習った程度の、ごく基本的な操作しか出来ない。
特にネットに関しては、単純な調べものくらいしか利用していない様子。
そのせいか、手塚からのメールは異常なほど簡潔だ。
一度、この俺がネットで入手した「ぜひうちの部にも取り入れたいすばらしいトレーニングメニュー」を詳細に書き込んだメールを送ったところ、驚くような返信が来た。
『了解』
お前は「電報」か。
ちなみに、全文がこれだ。
さすがの俺もこれには、キレた。
猛抗議の結果、手塚も納得してくれた。
──ように見えた。
だが、同じように、俺の青学テニス部に対する熱い思いを込めて出したメールへの返事が、これだ。
『了解した』
2文字しか増えてないし。
これを見たときは、言い様のない虚脱感に襲われ、思わず「ははは」と声を出して笑ってしまった。
しかし、こんなことでめげてはいられない。
そんなことを気にするようでは、手塚とは付き合ってはいけない。
俺が惚れたのは、そういう男なのだと納得するしかないのだ。
手塚は、自分が「天然」だという自覚が、これっぽっちもない。
全くもって恐ろしい事実だ。
あの、おっそろしく固い頭は、言い換えればつまらない世俗に塗れていない、とても素直で、ピュアな思考の持ち主と言えるかもしれない。
それならば。
待っていろ、手塚。
そのうちにお前を「俺色」で染めてやろうじゃないか。
そのときが来るまで、俺は「四文字熟語」のようなメールにも耐えてみせる。
とにかく俺は、お前にぞっこん(死語)なんだから。
これが、年頭に掲げた、俺の大いなる野望。
2004.1.21
…俺色って、汁色か?
見つけてくださってありがとうございます!わざわざ見に来て下さって、コレじゃあさぞかしガッカリなされたかと思います。す、すみません。
でもオバカな乾が大好物なので、たまにはこんなのもいいかなーと思いまして(笑)
今後も、こんな感じを軽い文章をチョコチョコ入れ替えていこうかと思っています。良ければまた見つけてやってくださいませ。どうもありがとうございました。