Canis lupus:10.07 (前編)
付き合いが長くなると、誕生日のプレゼントも、何を選んでいいのか困るようになる。
思いつくものは、大抵一度は贈ってしまっているからだ。

本、CD、DVDあたりは値段が手頃だから、中学の頃に既に贈った。
誕生日が寒い季節ということで、マフラーや手袋などの身に着けられるものも何度かプレゼントしている。
あまり物欲のない手塚には、何が欲しいかは聞くだけ無駄で「なにもいらない」と言い出す可能性の方が高い。
いっそ、贈りあうこともやめようと言い出しかねない。
それは、ちょっと寂しいじゃないか。

だから、手塚に直接尋ねるという手段を用いずに、好きなもの欲しがりそうなものを推測する。
難しいけれど、だからこそ楽しい時間でもあった。
ただ、今年の誕生日に限っては、何を贈るかは、わりと早いうちに決めていた。
手塚の好みから外れていないという自信もある。
問題は、それがちゃんと手に入るかどうかだった。

10月7日は、朝から真っ青の空が広がる気持ちのいい日だった。
平日だから、特別どこかに出かけたりはしなかったが、やっぱり誕生日が晴れだと嬉しくなる。
自分のではなく、好きな相手の生まれた日なら尚更だ。
バイトのシフトもあらかじめ避けておいたから、大学から帰ったあとでも祝う時間はたっぷりあった。


「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
普段は夕食時には、あまりアルコールを取らない手塚だが、さすがに誕生日くらいは別らしい。
冷えたビールでの乾杯に多少照れながらも、つきあってくれる。
テーブルの上には、今日のメインディッシュの焼き穴子入りのちらし寿司が載っている。
これは、手塚のお母さんが作ったものだ。

手塚は俺と違って、まめに家族に顔を見せに戻る。
今日も、ちゃんと一度自宅に寄ってきたそうだ。
そのときに、二人で食べろと、このちらし寿司を持たされたらしい。
手塚のお母さんは、料理上手なので、とてもありがたい。
しかも、デザートに手作りのケーキまである。
今夜俺が作ったのは、パックの出汁を使ったお吸い物と、和風サラダだけだった。

俺が作るよりも遥かに美味しい夕食をゆっくり楽しんだあと、コーヒーでも淹れていただいたケーキをつついてみようかという話になった。
プレゼントを渡すなら、今だ。
手塚がコーヒーを落とす準備を始めたのを見計らって、隠しておいたプレゼントをこっそりと持ってくる。
そして、俺に背を向ける手塚に声をかけた。

「手塚、ちょっと」
「ん?なんだ」
ちょいちょいと手招きすると、不審そうな顔をする。
今日という日を考えれば、何を言いたいかくらいわかりそうなものだが。
まあ、そこに気づかないところが、いかにも手塚らしい。

それでも、手塚は呼ばれるまま、素直にこちらに近づいてきた。
目の前まで来たところで、背中に回していたプレゼントを差し出した。
「これ、貰ってくれるかな」
「あ」
手塚は、目と口を同時に開き、少しの間その場で固まっていた。
どうも、プレゼントを貰うことなんて、本当に頭になかったようだ。
ついさっき、誕生日おめでとうと言ったばかりなのに、さすが手塚だ。


後編に続く(2008.10.21)