レトロウイルス:BIRTHDAY.ver4
「わかった。それでいい」
頷いてみせると、乾は安心したように微笑み、手塚の腰のベルトに手をかけた。
抵抗するつもりも理由も、既にない。
滑らかな動きで全部を脱がされたときには、恥ずかしがるよりも先に、手際の良さに感心してしまったくらいだ。

遮る物は何もない。
裸の身体を抱きしめられて、同じように抱き返す。
思っていたより体温が高い。
乾の掌は、過去に抱き合った誰よりも、素肌に馴染む気がして、手塚は大きく息を吐いた。
「緊張していらっしゃいますか?」
「敬語もやめろ」
「努力してみます」
くすりと耳元に息がかかる。

「…少しだけ緊張しているかもしれない。君は?」
「俺も同じです。でも」
「でも?」
「嬉しい方が強いかな」
抱きしめる力を少し緩め、乾はゆっくりと背中を撫で上げる。
大きな掌は、とても温かい。
嬉しいという言葉と、手のぬくもりだけで、満ち足りた気持ちになっていく。
今、乾が止めてしまってもかまわないとさえ思った。

「先生」
「違う」
「そうでした。え、と、国光…さん」
少し言いにくそうにしているのがおかしくて、肩口に顔を埋めたまま声を出さずに笑った。

「笑わないでくださいよ」
「どうしてわかった?」
「肩が揺れてる」
「悪かった。もう笑わない」
顔を上げると、乾と目が合った。
そのまま黙って見ていると、そっと眼鏡を外される。
そして、乾も自分の眼鏡を外し、唇を重ねてきた。

自然と両腕を乾の首に回していた。
乾は背中を抱いてくれていたが、その手が少しずつ身体の上を移動し始める。
いつのまにか離れてしまった唇も、吐息を交えながら首筋を滑っていく。
項から髪の中に指を差し込まれ、もう片方の手で腰を引き寄せられた。
互いの足が邪魔にならないよう、自然と角度を調節する。
気がつけば、二人とも息が荒くなっていた。

眼鏡のない切れ長の瞳には、自分はどんな風に映っているのだろうか。
レンズ越しでない今の方が、何もかも見透かされているような気がする。
何に怯え、何を喜んでいるか。
乾にならば、知られても構わない。
目を閉じていても感じる強い視線に、全身が焼けてしまいそうだった。

普段人目に晒すことのない部分に触れられて、少し呼吸が乱れる。
一瞬乾の手が止まったが、手塚の方から身体を抱き寄せると、繊細な動きを再開させた。
正直に言えば、乾とこうなることに多少の不安はあった。
乾自身が望んだこととは言え、現実に同性の裸体を目の当たりにしたら、戸惑ってしまうのではないか。
もし乾が少しでも怯んだ様子を見せたなら、どうやってこの場を収めたらいいのだろうと。

だが、それは杞憂だったようだ。
間接の目立つ長い指は、手塚が想像していた以上に情熱的だった。
手塚よりも、よほど大胆に身体に触れてくる。
決して乱暴ではないが、躊躇う様子もない。
ずっと以前に見た、パソコンのキーボードを鮮やかな手つきで叩くシーンが脳裏に蘇る。
あのいかにも器用そうな長い指が、今自分に触れているのだと思うと、胸の奥がざわざわとした。


2008.10.25(5に続く)