レトロウイルス:BIRTHDAY.ver7(R18)
「もう、挿れても…大丈夫ですか?」
「…ああ。いつでも」
返事の変わりに、乾は軽いキスをひとつ落とした。
それから、手塚の足を更に高く持ち上げ、乾自身の硬く張り詰めたものを押し当てる。
「いきます」
その言葉に合わせて、意識してゆっくりと息を吐いた。

苦痛を伴うだろうと、覚悟はしていた。
それでも構わないと思ったから、乾の言葉に頷いたのだ。
だが、ここでもまた、自分の予想は外れることになった。
狭い場所を押し広げられるときの異物感はあっても、痛みと呼べるものは殆ど感じなかった。
もっともきついところを通り過ぎたときには、自然と大きな息を吐いていた。

「辛くないですか」
「いや、平気…だ」
この言い方は乾に対してフェアじゃない。
一度呼吸を整えて、改めて口を開く。

「気持ちが、いい」
「良かった。…俺も同じです」
少し霞んだ視界には、微笑む乾が映る。
身体を繋げたまま唇を重ね、改めて両腕を広い背中に回した。
いつも涼しげに見えた男の肌が、こんなに熱いなんて知らなかった。

乾は暫くの間、動かずにいた。
手塚が慣れるのを待っているのか、それともこの感覚を味わっているだろうか。
異物感が薄れ、かわりに甘く切ない感覚が目覚め始めた頃、乾が口を開いた。
「動いても?」
「ああ」

手塚の返事を確認し、ゆっくりと乾が腰を引く。
はっ、と呼吸が乱れる。
自分の内部が蠢く感覚があった。
逃げる乾を捕まえようとしているのか。
だが、そうする前に、すぐにまた乾が中に戻ってくる。
さほど大きな動きではないのに、擦り上げられる感覚に、つい声が漏れた。
それは、もっとこの行為を続けていいのだと、乾に教えたようなものだ。
あくまで慎重に、だけど少しずつ動きを大きくしながら、抜き差しを繰り返す。

繋がった場所から、じわじわと痺れが体内に広がっていくようだ。
疼くような感覚に焦れてシーツを握ると、今度は鋭敏になっている場所を的確に攻められる。
交互に襲ってくる快感の波に、徐々に自分を失っていく。
自分がどこまで耐えられるのか、わからなくなってきた。

そのくせ、もっとこの行為を続けて欲しくて、強請るように乾の背を抱いてしまう。
誰かと寝るのが久しぶりだからとか、そんな理由じゃない。
乾がこの行為を楽しみ、より深く味わおうとしているのが、しっかりと伝わってくる。
そして、同じ快感を、手塚にも与えようとしているのだ。
手塚の望みに的確に応え、浅く深く角度を変えながら、抽挿を続けている。

「…信じ、られない」
「何が?」
荒い呼吸を抑えることができないまま、無理やり言葉を吐き出す。
「本当に、男とは、初めてなのか」
「ええ」
「上手すぎる」
「嬉しいけど、それ、多分違います」
手塚は、これだけ言うのも必死なのに、乾の方には、にやりと笑うくらいの余裕があった。

「きっと、身体の相性がいいんだ」
「……いぬい」
くん、と続けるつもりだったのに、その先を言う前に唇を塞がれる。
「そのまま、呼び捨てに、してください」
さすがに乾も、長い台詞を一息では言えなくなっているようだ。
間に呼吸を挟んで、ふっと微笑む。

「好きなんです。いぬい、と呼ばれるのが」
この男の名前が短くて良かった。
乾だけで良いなら、今の自分でも、名前を呼べる。
「乾」と呼ぶと「国光さん」と返される。
それがたまらなく嬉しかった。

身体を重ねれば、相手との距離が縮むとは限らない。
逆に、もっと遠ざかってしまうこともあった。
でも、この男は違う。
こうすることで、本当に自分の手の届くところにいると感じられた。

初めて出会った瞬間から、惹かれていた。
そして、会うたびにどんどん好きになった。
自分の中に、まだこんな風に、誰かを恋する感情が残っていたことに驚いた。

過去に、愛されたいと思ったはずの人間の顔が思い出せない。
今、思い浮かべることができるのは、愛したいと願うこの男だけだ。
心地良い重みを、しっかりとした骨格を、湿って滑らかになった肌を、自分の身体に記憶させてしまいたい。
手が届く場所はすべて輪郭をたどった。

どうして、さっきは待ってくれなどと言ったのだろう。
乾よりも、自分の方が強く望んでいたはずなのに。

いつのまにか、乾にも余裕がなくなっているようだ。
手塚をずっと優しく見つめていた目は閉じられ、切なそうに顰めた眉の間には汗が光っている。
激しくなった抽挿が、その時が近いと告げていた。

急速に駆け上がってくる強すぎる快感に、意識が真っ白になった。
多分、その瞬間に、乾の名前を呼んだのだと思う。
それ以上のことは、なにもわからなかった。


2008.10.30(8に続く)