白い指
乾は、とても器用に動く指を持っている。
肌は白く、しっかりとした関節が目立つ長い指だ。
爪の何本かは、少し欠けたり傷がついていたりするけれど、色は綺麗だ。

考えことをするとき、乾は時々くるくるとペンを回す。
そのうち、ペンを回すこと自体が面白くなってくるのか、考えことを止めて、ペンの方に意識が移ってしまったりする。
その技は、いつかテレビで見たペン回しのチャンピオンにさほど引けはとらないように、手塚には見えた。

乾の場合、何かを上手に作るというよりも、指の動きそのものが器用で美しい。
ノートパソコンのキーボードを叩く指先は、ピアニストみたいだとも思っていた。
聞けば、小さなとき、ほんの数年だけ実際にピアノを習っていたらしい。
なぜ止めたのかを訊いてみたら、テニスの方に夢中になったからと笑って答えた。

そんな乾の指は、手塚の身体に触れるとき、とても繊細に動く。
たった今貰った誕生日プレゼントのマフラーを、乾はくるりと手塚の首に回し、流れるような手つきで軽く結んで見せた。
見せられた鏡の中のそれは、不思議な形を作っていた。
「良く似合うよ」
乾は笑いながら言うけれど、自分ではどうやっても再現できないだろう。

首の後ろ側の髪の毛が、マフラーの中に埋もれてしまっているのを見つけ、乾はそっと指で直してくれる。
かすかに爪の先が項に触れ、ぞくりと首筋にそって弱い電気みたいなものが走った。
「ん」
どんなに小さな声でも、乾は聞き漏らさない。

「くすぐったかったかな」
「少し」
まさか、お前の指先に感じた、なんて言える筈がない。
だけど、手塚の言えないことを、誰よりも的確に読み取るのが、この男だ。

乾は小さく笑い、今巻いたばかりのマフラーを、ゆっくりと外し始めた。
ベッドの上に座る手塚の前に膝をつくその姿勢は、何か儀式めいて見えた。
じっと目を見られるのが恥ずかしくて、手塚は横を向き視線を外すそうとした。
だが、乾の手がすばやく顎を掴まえ、それを許さなかった。

「くすぐったかったんじゃないね」
勿論、返事はしない。
「気持ちが良かったんだ。違う?」
「わかっているなら聞くな」
「わかっているから聞きたいんだ」

するりとマフラーを外し、それをベッドの上に置いて、乾は楽しそうに微笑んだ。
「俺がなんのために、ここに呼んだと思ってるのかな」
「こういうことをするためか」
顎を持ったままの乾の手を払い、かわりに自分から乾の胸倉をつかみ、唇を押し当てた。
眼鏡が嫌な音を立て、鈍い痛みが鼻の付け根に響いたが、構わずにキスを続けた。

唇を離すと、乾はふっと笑って、そのまま手塚をベッドの上に押し倒した。
「大正解」
馬鹿、と声を出さずに言うと、嬉しそうに頷く。
手を伸ばすと、軽く目を伏せる。
眼鏡を奪ってやろうという意図を、すぐに察したようだ。

分厚いレンズの嵌った眼鏡を取り上げ、邪魔にならない場所に置く。
そんな短い動作の間に、乾は既に手塚の制服のボタンをいくつか外してしまっていた。
まったく器用な男だ。

長く繊細な指が、この後、自分の肌の上をどう滑っていくのか。
それは良く知っている。
ペンをくるくると回すよりも、手塚に声を上げさせるほうが、この男にとっては、よほど簡単なことだろう。

既に自分の素肌に触れている乾の右手を取り、その指先を噛んでやった。
乾は驚くどころか、やけに幸せそうな顔で、笑っていた。


2008.10.12
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中高生くらい。誕生日にかこつけた、ただのいちゃいちゃ。

乾はピアノくらい弾ける。きっとね。うん、きっと。