乾は、何を考えているのか、手塚には少しわかりにくい。
いつも態度が落ち着いていて、顔の表情もあまり動かない。
肌の色は白いが、髪の毛は真っ黒。
背は高く、筋肉質な体は、全体が直線で構成されているようだ。
乾は、中身も外側も、印象が硬質なのだ。
大人びた声と口調のせいで、ややとっつきにくい感じもする。
だが、実際の乾は、意外なほど人当たりはよく、後輩の面倒見もいい。
ものを教えるのも上手いから、新入部員には、結構人気がある。
ちょっとした空き時間に、一年生が乾の周りを取り囲むのを、手塚は何度も目にしていた。
小さな一年生と乾では、、まるきり大人と子ども会話のようだ。
乾の口調も普段より丁寧で、心なしか表情も柔らかい。
元々あまり声を荒げたりしないから、新入りの部員は、怖さを感じずに済むのだろう。
たまに、笑顔まで浮かべる乾に、後輩達も釣られて笑っている。
なのに、手塚に気づいて、振り返るとき、乾の表情が一変する。
眩しいものを見るように。
痛々しいものを見つけたように。
少し目を細め、口元を引き締める。
笑顔を見せるのは、その一瞬あとだ。
いつも、いつも、いつも。
どうして、そんな目を、自分に向けるのか。
なぜ、自分に向かって、笑いかけないのか。
ずっと、それを知りたかった。
なにか、特別な理由があるような気がしてならなかった。
でも、乾がその理由を語らないように、手塚も、なぜかとは問いかけられなかった。
漠然とだが、同じ種類のためらいが、乾と自分のそれぞれにあるののだろうと思っていた。
そして、ずいぶん長い時間、疑問は疑問のまま存在し続けた。
そろそろ中学生活が終わる頃になって、ようやくその理由に気がついた。
凝っていたものが溶け出すように、ゆっくりと時間をかけて、やっと見えてくるものもある。
乾が自分の口から語らなくても、手塚が問いたださなくても──。
きっと、今の自分も、少し眩しそうに乾を見上げているのだろう。
澄み切った冬の空は、どこまでも冷たく青い。
眩しすぎて、とてもじゃないけれど、目をあけてはいられないのだ。
2010.01.25
両思いの予感がしている手塚がブームらしい。