暑さ寒さも オマケ
目を開く直前まで、ちょうどいい温度の風呂につかっている夢を見ていた気がする。温かくて、心地よくて、ずっとこうしていたい。
そんな気分だったと思う。
喉さえ渇かなければ、おそらく目なんか覚まさなかったろう。
「…水」
瞼を開く前に、手塚はそう呟いた。
自分の出した声のせいで、意識が覚醒する。
ゆっくりと重い瞼を開くと、目の前には見慣れた乾の顔があった。
まだ薄暗い部屋の中でも、乾の肌は白く映えている。
こんなことは、今までにも数え切れないほど体験している。
でも、なぜだか少しだけ驚いた。
驚いてしまった自分に、更に驚きを感じる。
おかしいな、と手塚は薄闇の中でなんどか瞬きをした。
そのうち、自分が喉が渇いて目が覚めたことを思い出した。
起きようかと、僅かに身体を捻って、ようやく自分がどういう状態なのかに気がついた。
上半身はぴたりと乾に寄り添うようにして、足は片方ずつが絡み合っている。
乾の両腕は、しっかりと手塚の身体を抱きかかえていた。
温かい夢を見ていたのは、きっとこのせいだ。
手塚は、まだぼんやりと頭の隅に引っかかっている、夢の名残を思い出す。
同時に、さっき驚いた理由もなんとなくわかってきた。
夏の間は、今みたいに、素肌で抱き合って眠るなんてことはなかった。
自分ひとりの体温でさえ鬱陶しいのに、いくら相手が乾でも、汗ばんだ肌を触れ合わせるのは、暑苦しかったのだ。
でも、今夜は違ったようだ。
いつのまにか、夏は終わり、乾の体温を心地よいと感じる季節になったのだ。
意識するよりも先に、きっと身体が勝手にそれを求めたのだろう。
昨日までは離れて眠っていても平気だったのに――。
手塚がほんの少し動いたことで、二人の間にわずかな隙間ができた。
眠ったままの乾は、腕に力を込めて手塚の身体を引き寄せる。
また、ぴったりと裸の胸が触れ合った。
乾の腕の中は、とても暖かくて、気持ちがいい。
まだ二人とも中学生で、こんな関係になるとは予想もしていなかったころ。
乾は顔や声に感情を出すことが少なかったから、とてもクールな人間に見えていた。
外見もどちらかといえば、硬質な印象だったせいもあったろう。
乾に触ったら、ひんやりしているんじゃないかと思っていた。
だけど、実際は全然違っていた。
他人の肌の温度や手触りがこんなに落ち着くなんて知らなかった。
喉はまだ渇いているけれど、ここを抜け出すことが、どうしてもできない。
再び目を閉じたら、簡単に眠りに引きずり込まれそうだ。
次に目を覚ましたときには、きっと乾は先に起きているだろう。
そのときに、水を持ってこさせればいい。
乾なら、絶対に嫌だとは言わないはずだ。
手塚は、小さく笑ってから、安心して両の目を閉じた。
2008.09.28
なんて自分勝手な受けキング。
触ったら冷たそうだと思っていたのは、乾の側も同じ。ふたりで似たようなことを感じていたというのが、自分的萌えポイント。