Spring
今年の冬は例年になく寒さが厳しかったように思う。だけど、さすがに三月に入ってからは暖かい日が多くなってきた。
いつのまにか、布団から腕を出して寝ていたのは、きっとそのせいだろう。
朝方、寒くて目が覚めた。
二人で寝るには少々窮屈なベッドを使っているから、こんなことは珍しくはない。
冷たくなった重い腕を毛布に押し込むと、じわりと暖かさがしみる。
肩の辺りから風が入っていたらしく、半身が冷えていた。
でも、手塚がいる側は、心地良い温もりがある。
俺は一人じゃないのだなと実感するのは、こんなときだ。
カーテンの隙間から、徐々に光が差し込んできた。
早春らしい柔らかな日差しだ。
紗がかかったような視界に、ぐっすりと眠る手塚が映る。
少し乱れた髪と、細い首が、あどけなく見えた。
手塚の寝顔が、こんなに可愛いことを知っている人間は、この世に何人いるのだろうか。
それを考えると、自然と頬が緩む。
起こさないように裸の背中をそっと抱くと、冷え切った手には熱く感じた。
きっと、今の俺は、世界中で一番幸せな顔をしているだろうと思いながら目を閉じると、すぐにまた眠りに落ちた。
再び目が覚めたときには、手塚はもう起きた後だった。
内容は少しも覚えてないけれど、いい夢を見ていたような気がする。
きっと、夢の中でも手塚を抱きしめていたんだろう。
今日は、とても気分がいい。
勢いをつけて身体を起こし、そのまま大きく伸びをした。
ベッドルームから出ると、手塚は朝食を作ろうとしているところだった。
ちょうど冷蔵庫を閉めたところで、手には卵のパックを持っている。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
こっちは、笑顔で挨拶したのに、手塚はなぜか眉をひそめて俺を見ていた。
「なに?変な顔して」
朝食作りを手伝うために、腕まくりをしながら近づくと、手塚は軽く首を傾げた。
「お前、今朝は、どんな夢を見ていたんだ?」
「なんで、そう思うんだ?」
俺が手塚のことを思いながら眠っていたのが、通じたのだろうか。
少しだけドキドキした。
「ものすごくニヤニヤしながら寝ていて、気持ちが悪かった」
「……あ、そうなんだ」
この上なく幸せだった朝が、いっきに色あせていく。
どうして、この俺の熱い想いが、手塚にまっすぐ伝わらないのか。
少しだけ悲しい。
「早く、手伝え」
「あ、ごめん。今行く」
悲しむ暇さえ与えてくれない冷たい声に、慌てて答える。
どうも、根本的な部分で、俺と手塚には相容れない部分があるようだ。
それでも、大好きなんだからしょうがない。
2008.03.06
どんどん乾がかわいそうになっていくんだが、どうしたらいいんだろう。