楯
とても華奢に見える手塚の身体が、実は鍛え上げられた鋼のようだと知ったのは、彼のベッドの上でだった。だが、透き通るほどに白く滑らかな肌と、繊細すぎる顔の造作がどうしても、手塚を壊れ物に見せてしまう。
無意識のうちに、恐る恐る触れていることを、ボスは時々声に出して叱った。
「そんな風に触るな」
声はぴしりと冷たく厳しい。
だが、唇には微かな笑みが浮かんでいる。
この人は、そんな器用な真似を平然とやってのけるのだ。
「申し訳ありません」
思わず引きかけた右手は、すばやい動きで掴まれた。
強引に引き倒され、ボスの上に圧し掛かる形になってしまった。
「馬鹿正直だな、お前は」
しなやかな腕が背中にまわり、くすくすという笑い声が耳を擽る。
「見かけで判断すると、危ないぞ」
「わかっています。貴方はわたしなんかより、ずっとお強い」
シーツの上に褐色の髪を散らし、手塚はうっすらと微笑んでから、目を伏せた。
綺麗過ぎて、見ているのが怖い。
だけど、もう目を逸らすことも、できなかった。
この人は、時々、幼い子供のように、とても幸せそうな顔で眠る。
ボスでいる間には、見たこともないような表情だ。
眠っているときしか、そんな顔をしない。
ずっと、この人の背中を守ってきた。
ボスを脅かす全てのものを跳ね返す楯でありたいと願っていた。
でも、今は、手のひらに収まる貴方の肩を守りたい。
静かな夜の空気が、柔らかい肌を冷やしてしまわないように。
そっと抱き寄せた身体は、簡単に両腕で包み込んでしまえた。
その細さが、どうしようもなく切なくて、とても愛しかった。
2008.09.14
マフィア乾塚。乾はものすごくガタイがいいイメージ。