螺旋結晶

思い出すのは、いつも、夏の終わりの風景。
目に染みる真っ青な空と、流れる白い雲。
真夏の風とは違う風に、揺れる茶色の髪。

繰り返し夢に見て、何度も思い出す。
それは、全て同じ夏の風景だ。

あの夏が、一番鮮やかな色で、網膜に焼き付いてしまった。
終わらないでくれと願った15の夏。
終わることを知っていたから、そう願わずにいられなかった。

届かない。
振り向かない。
聞こえない。
夏が過ぎれば、そうなると思ってた。

一度だけの特別な夏は、とても大切なものを残して終わりを迎えた。
印画紙に焼きついた空の色を見たとしても、もうあの日々と同じ青を見ることはできない。

だけど、子どもだった自分は、知らなかったのだ。
永遠と呼べるものは、ひとつだけじゃないことを。

あの日のような暑い時間は二度と訪れなくとも、季節は巡り、また夏が来る。
水の色をした風が、再び薄茶の髪を揺らす。
眩しそうに目を細めて、空を見上げる人は、たった今気づいたというように、後ろを振り返った。

「そこにいたのか」

どう返事をしようか、少し迷った。
でも、今言える言葉は、そう多くはない。

「ずっと、見てたよ」
「ああ。知っている」
微笑む顔には、中学生の頃の面影があった。

一度過ぎてしまった時間は戻らない。
でも、あの夏の時間は、今でも手塚の中に、確かに在る。
純化した結晶のように、きらきらと光りながら。


2008.12.05(2009.11.24再アップ)

仮公開したまま忘れていたものをhtml化して収納。