恋文

今日、手塚の夢を見た。

ふたりきりで、ただ海辺を歩く夢だった。
白いカッターシャツを着た手塚は、十代半ばの姿だった。
ズボンの裾を捲り、裸足で波打ち際を歩いていた。
俺達以外には、人の気配はない。

どうやら雨が上がったばかりらしく、空は淡い水色と薄いグレーの雲が、まだらになっていた。
季節は多分、夏の終わりか、秋の初めだ。
風が強く、手塚のシャツの襟が、はためいている。
きっと俺は、寒くないのかと聞いたのだろう。
手塚は首を横に振り、平気だと笑った。

白い足が、何度も波に洗われる。
砂に残した足跡も、消えていく。
水は、冷たくないのだろうか。
手塚はどこか遠くを見ていたけれど、俺は手塚の足元ばかり見ていた。

とても静かな夢だった。

目が覚めたとき、当たり前だけれど、そばに手塚はいない。
中学の頃の制服だったから、少しだけ切ない気持ちにはなった。
でも、寂しいとは感じなかった。
いい夢だと、素直に思った。
だから、手紙を書くことにした。
メールでは、モニター越しの文字では、伝えられない気がしたから。

まともな便箋や封筒なんて持っていなかったから、その日のうちに買いにいった。
青空の写真を使ったレターセットが見つかって、それに決めた。
長い時間をかけて文字を綴り、遠くにいる手塚に送った。
ポストに封筒を投函するとき、なんだか胸がどきどきして、くすぐったい気持ちになった。
手塚はどんな顔で、この手紙を読むのだろう。

少ししてから、手塚から返事が届いた。
俺の見た夢に良く似た、少し寒そうな、だけどとても綺麗な空の写真が一枚入っていた。
どこの空なのか、手紙の中には書いていなかった。

「俺が会いたいと思ったから、お前がそんな夢を見たのかもしれない」
几帳面な文字で、そんな平安の人みたいなことが書いてあった。
手塚なら、それもおかしくはない。

長い手紙ではなかった。
だけど刻まれた文字のひとつひとつにこめられたものは、決して軽いものじゃない。
俺は何度も何度も読み返して、これは、手塚からの恋文なのだと思った。

2008.11.28

バカップルを通り越して、老夫婦みたいなことになってきた。