夏、だった

14の夏だった。
初めて、他人と肌を合わせた。
その相手は、乾だ。
多分、初恋だったのだと思う。

乾が、本当に好きだった。
一番好きだった。
あとにも先にも、あんなに誰かを欲しいと、強く願ったことはない。
初めてが、乾、良かったと、今でも思っている。

あれから10年近くが経ったけれど、今でも一番好きなのは乾だ。
というより、乾以外を好きにはなれなかった。
今にいたるまで、乾以外と身体を重ねたことはない。

正直に言えば、他人と寝たことがないわけじゃない。
乾と遠く離れていた頃に、誰かとベッドに入るところまでは、何度か経験した。
だが、結局はせいぜい身体に触れるくらいで、それ以上の行為をすることはなかった。

いや。
しなかったのではない。
できなかったのだ。

身体の重みや肌触りが、乾と違う。
乾の肌は、とても滑らかで気持ちがいい。
全身で受け止める重さは、安心をくれた。

シャンプーの香り。
耳にかかる吐息。
名前を呼ぶ声。
全部、違う。
それが我慢できなかった。

欲しいのは今も乾だけだ。
そうわかってから、ずっとひとりでいることを選んだ。
乾ともう一度会うまで、それは続いていた。

お前しか知らないままだと伝えたとき、乾は困った顔で笑っていた。
今にも、謝罪の言葉を口にしそうだったので、自分から唇を塞いでやった。

不器用で、いい。
我侭と言われてもいい。
乾しか欲しくない。
乾じゃないなら、誰も、何も要らない。
ただ、それだけのことだったのだ。

乾が謝る必要など、どこにもない。
そう告げると、ますます困った顔で笑う。
そんな顔は見たくない。

「謝るかわりに、ずっと俺のものでいると誓え」
この言葉に、乾は肩を揺らして笑った。
こっちの笑顔の方が何倍も好きだ。

初めて抱き合った頃の、笑顔に良く似ていた。

2009.05.20

「PERSPECTIVE」「Lagrange point」の二人。