鬼の棲み家
何時、どうやってこの世に生を受けたのかはわからない。だが、気づいたときには一人だった。
今と寸分変わらぬこの姿のまま、闇の中に立っていた。
恐らくそのときに、知ったのだろう。
己の中に流れる血の色を。
この身に与えれられしさだめが、呪われたものであることを。
人の形をしながら、
人ではないもの。
人を惑わし、
人を喰らう。
それに逆らおうと思ったことは、ない。
それが、己にふさわしい理だった。
肉を引き裂き、
骨を噛み砕き、
塵さえ残さぬ。
ただ、赤い血の色が、己の唇に染み込んでいった。
この身が朽ち果てるときが、いつか来るのか。
それすらも忘れてしまいそうな長いときを、ずっと一人で立っていた。
今、傍らから人の眠る気配がする。
穏やかに上下する胸の中には、確かな鼓動を打つ心臓がある。
鬼のすぐ隣りで眠る男の無防備さに、知ることのなかった思いが生まれる。
すぐにでもその心臓を鷲掴みにして、喰らってしまえるのに。
伏せた瞼から両の眼を抉り出し、飲み込んでも構わぬのに。
だが、己は決してそうすることないだろう。
己の命を分け与えた、
この世でただ一人の情人を
生まれて初めて知った
愛しいという言葉の意味を
この手から失うことは、未来永劫出来はしまい。
2004.06.21
「白妖」の続きみたいなものです。
この鬼はどうやら「受け」みたいですよ(笑)。
ホントはその後の二人を書こうかなってちょっとだけ思ったんです。えっちシーンまで入れて。でも興ざめしそうなのでやめました。あれはあの形で終わっていた方がいいですよね。
※結局、書きました(笑)。