5時13分46秒
いつになく早い時間に目が覚めたのは、いつにまにか毛布の外にでていた腕が冷えていたからだ。それでも手塚の肩はちゃんと抱きしめたままなので、寒い思いはさせずにすんだようだ。
穏やかに続く呼吸を確かめて、左腕を犠牲にした甲斐があると乾は満足して微笑んだ。
時計の針は5時を少し回ったところだ。
少し曇っているせいか、部屋の中はまだ薄暗い。
とっくに桜の季節も終わったのに、今朝は肌寒いようだ。
冷えた腕をもう一度毛布の中にしまい、手塚を起こさないように気をつけならがその身体を抱きなおす。
まだ手塚と夜を過ごすごとに慣れないうちは、無理な体勢をとってしまいがちで、寝てる間に腕の感覚がなくなったり痛んだりして、夜中に目を覚ますことも少なくなかった。
今ではお互いに加減を憶えて、相手に負担をかけずに体重を分け合うことが出来るようになった。
少し前までは薄暗がりで見る青白い寝顔が痛々しく見えて、自分が手塚に酷いことをしてしまった気分になったこともある。
今でも、手塚を疲れさせるものが、テニスなのか、日常生活なのか、自分のした行為のせいなのかと気にかからないわけではない。
だけど、必ずしも肉体の疲労が苦痛でだけではないことも経験でわかってきた。
こうやって、ただ衝動に突き動かされて、抱き合うことも自分達には必要だと思える。
両の腕や胸で受け止める心地よい重みは、今の自分には最高の贅沢だ。
少し空が明るくなってきたようだ。
このまま手塚を眠らせておいて、自分ひとりでランニングに出かけようか。
早朝の冷たい空気を肺に吸い込みながら走るのは気分がいいから。
でも、それをあとから知った手塚に何を言われるかわかったものじゃない。
何故起こさなかったと怒る手塚をなだめるのは決して嫌いじゃないけど。
そんなことをぼんやり考えていたら、手塚の身体が少し動いた。
目が覚めたのかと思ったら、緩めた両腕の中で寝返りをひとつ打ち、まだ寝息が続く。
その背中を声を出さずに笑ってから、静かに抱きしめた。
手塚も自分もまた少し背が伸びたことを乾は知っている。
手塚の身長は180センチを越え、乾の身長は四捨五入すれば190になる。
それになんの意味があるのかわからない。
このベッドで二人一緒に眠るのはそろそろ無理があるだろうか。
でも、どんなに窮屈であったとしても、手塚がこの部屋に泊まるときは隣りで眠ると言い張るのは間違いない。
起きる決心はつかず、かといって眠くもならない。
こうやってぐずぐずとしているうちに、結局起きる時間がきてしまうんだろう。
今は、手塚が目を開ける瞬間にキスをするのを楽しみに待つことにしよう。
「2003TEXT」の中にある「夜明け前」を思い出しながら書きました。あの頃より、もうちょっと慣れた二人。
2005.4.27
目が覚めたとたんにキスをされても、手塚はきっと前ほど驚かない。乾はそれをつまらないと思うのか、逆に嬉しいと思うのか。多分両方だな。
手塚は乾と一緒に寝るのが好きってのがマイデフォルトです。えっちなしでもいいから、一緒N寝たいの。そんな手塚が可愛いなーと思うの。