BALANCE
どこをとっても何一つ似ていない僕と乾には、たったひとつだけよく似ているところがある。
それは嘘を吐くのが上手いこと。
だから、僕は乾には嘘はつかないし、乾も僕には嘘を言うことはない。
「不二にだけは俺の嘘は通用しない」
苦笑混じりに乾はそう言うけれど、本当のことを黙っているのは今も変わらないくせに。
高校に上がってから、乾と手塚の関係が以前とは少し違うことに気づいたのは僕だけじゃない。
乾が手塚に拘っていることは誰でも知っていることだったけど、手塚が乾と個人的に付き合いを深めるようになったのは、皆には意外なことだったらしい。
それどころか。
あの二人が実は恋愛関係にあるなんてこと、恐らくは誰も信じたりはしないだろう。
僕は最初から予想できたことなので、驚いたりしない。
というより、いかにも手塚は乾が好きになりそうな相手だと思ったくらいだ。
あれは、二人が親密になり始めたばかりの頃だったろうか。
乾が僕に笑いながら言ったことがある。
「流石に焦ったんだよ、自覚したときは」
僕が二人のことに気づいてることを乾はとっくに知っていたから、僕には何も隠したりしなかった。
勿論僕も同じで、乾の前ではごく普通に手塚とのことを口に出していた。
「あ、俺って男が好きだったんだって、驚いた」
「僕には意外でもなんでもなかったよ。手塚は乾の好きそうなタイプだもん」
僕がそう言うと乾は困った顔になって、だけどやっぱり楽しそうにくすくすと笑い続けていた。
大人びて見える乾と手塚も、実際は案外そうでもなかったりすることを、どれくらいの人間がわかっているんだろう。
乾は皆が言うほど落ち着いているわけでも、計算高いわけでもない。
年相応に危なっかしく不安定だ。
それに気づいてもらえないのは乾にとっての不幸なのかもしれないが、乾本人が自覚しているのは僅かな幸運かもしれない。
手塚にしてもそれは同様で、皆が言うような冷静な人間ではないし、かといって噂ほど鈍い人間ではない。
手塚はきっかけ次第では、相当無謀なことをする奴だ。
乾と手塚の共通点と言えば、せいぜいテニスと眼鏡と背が高いってことくらい。
そんな二人の恋愛なんて、どんなに危ういかと思ってみれば。
手塚の雑用が片付くのを待っている乾の嬉しそうな顔と、それをさも当然のように受け止めている手塚を見てる限りでは、あれはあれで上手くいってるんだろうと思う。
言葉もかわさずに、一瞬だけ交錯する視線。
誰にも気づかれない、秘密の呼吸。
振り向いたときにはちゃんと用意されている片割れのための場所。
悔しいほどに、
見事なまでに
完成された綺麗なバランス。
ああ、なんだか悔しいな。
既にお互いを見つけてしまった君達が少し羨ましくて。
だから、これは乾には教えないつもり。
きっと君達の支点は、両手を伸ばした先にある。
2005.9.11
ずーっと前に書いたんですが、本人も忘れてました。ちょっと前の絵チャの話題がきっかけで思い出したのですが、どこに保存していたかを思い出せなかったのですね。行きあたりばったりなファイル名をつけるからそういうことになるのですけど。
たまたま今日見つけたので、サルベージしてみました。日付に9.11とありますが、実際は多分今年の4月くらいに書いたのだと思います。
私は1世界1ホモが好きで、ひとつのお話に複数のカップルが出てくる話を書きません。お遊び的なものとか、ほんのりとした恋心みたいなのは別ですが。
だからホモの三角関係も横恋慕ものは今後も出てきませんし、基本的に二人の関係は皆には秘密です。でもね、もし気づく人がいるなら、それは不二様であって欲しいんです。不二様に対して、乾は特別な感情を持っているというのが私のデフォルトです。恋愛は手塚と、友情と呼べるものかどうかはわかりませんが、同志的な感情は不二様に。それが萌えです。