模範解答

「手塚は本当に俺のこと、好きなの?」
「こういう状況で聞くことか?」

呆れたような口調と顔で返事を返された。
まあ、それも無理はない。
手塚と俺は裸でベッドの上にいて、それもすでに一汗かいたところなのだから。

達ったばかりで力の抜けた身体を抱いて、普段はあまり触らせてくれない髪を撫でながらの質問は手塚には不可解なものだったらしい。
言ってみれば「愛しあった直後」なのだから、この場合手塚の反応の方が正しい。
要するに手塚は「好きだからやった」と言いたいのだろう。

「…好きじゃなくてもやることはやれるだろう?」
「少なくとも俺は出来ない」
確かに手塚は、情に流されて身体を許すような人間じゃないし、ましてや快楽に溺れてしまうタイプでもない。
手塚と言う人間を端的に表現するなら「石頭の潔癖症」だ。

「それは光栄」
俺は笑って言ったのだが、手塚は反対に不機嫌そうな顔を見せる。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「手塚は一体俺のどこがいいんだろうと思ってね」
俺の言葉を聞いた手塚はますます不愉快そうに眉をひそめた。
「過ぎた謙遜は気分が悪い」
「ああ、そうじゃなくてね」
手塚らしい物言いについ苦笑が洩れた。

「俺なんかの、って意味じゃない。純粋な疑問だよ」
「疑問?」
「うん。箇条書きにして5個くらいあげて欲しい感じ。あ、ちなみに俺は手塚の好きなところなら今すぐ20箇所くらい答えられるよ。10分時間をくれたら50個くらいは挙げられるね」
手塚は一度眉間の皺を深くしてから、わざとらしく鼻で笑った。

「本当に馬鹿だな、お前」
「多分ね」
救い様のない手塚馬鹿であるという自覚はとうにしている。
多分手塚を好きになった瞬間からそれは始まっていたはずだ。

俺の腕を枕にしていた手塚は、顰めた眉を元に戻してふと表情を和らげた。
「お前のそういう馬鹿さ加減は嫌いじゃない」
「それ、褒めてんの?」
「違うから安心しろ」
あっそう、と呟くと今度こそ楽しそうに手塚は微笑み、つられて俺も小さく笑った。

「お前の…眼鏡をかけてないときの笑った顔は好きだ」
手塚の指がすうっと俺の顔の輪郭を辿る。
らしくない繊細な動きに一瞬ぞくりとした。
「俺しか知らない顔だ」
「言ってて恥ずかしくならない?」
「言わせたのはお前だ」

頬を触っていた指はそのまま俺の首の線をなぞり、肩のほうへ流れていく。
その指先を掴まえてキスをすると、手塚は少し目を細めた。
「お前は言葉に出して言わなくても俺の欲しいものをくれる。そういうところも好きだ」
手塚の薄い唇はいつの間にか濡れている。
「今、俺が欲しいものがわかるか?乾」

「俺、かな」
「正解だ」
俺達は同時にくすりと笑い、お互いの唇を塞いだ。
手塚の腕が俺の首を抱き、俺は手塚の腰に手を回した。
そして浅いキスと深いキスを何度も繰り返してから、もう一度手塚を抱いた。



「やってるときのお前の顔と声が好きだ」

終わった後でそう言われて、俺は心から後悔した。
どこが好きかなんて聞くんじゃかった。
次から一体どんな顔で手塚を抱けば良いんだ。
ついぼやいてしまった俺を、自業自得だと手塚は笑っていた。

きっと、この質問の答えは数より質が重要だったのだ。
寝息を立て始めた手塚に、負けましたと呟いた。



2006.02.02

開き直った手塚は最強だと思う。ウケキング手塚万歳。

書きかけの執事ネタをほったらかして、突発的に書いた。たまにこういう波がくる。