PROLOGUE
俺は手塚が好きで、手塚も俺が好き。
それで「めでたし、めでたし」とならないのは、
性欲という厄介なものがあるからだ。
手塚を好きだと思うこの気持ちが、単純な好意でないことはずっと前から自覚していた。
そもそも、気づいたきっかけは『手塚に対して欲情してしまった』からなのだ。
特別な状況だったわけでもなく、毎日繰り返す普通の練習時間だったのに。
手塚は首に流れた汗を拭こうとしたのだろう。
いつもよりひとつ余分にボタンを外して襟を開き、タオルで首をぬぐった。
たったそれだけ。
俺は少し離れたところからそれを見て、手塚の首は細いんだなと思った。
その瞬間、心臓が大きく脈打った。
ごくりとのどが鳴ったような気もする。
ざわざわと血が騒ぎ、嫌な予感がした。
このまま見つめ続けていたら、もっとまずいことになる。
慌てて、視線を外して素知らぬ顔をした。
だけど、自分がすでに反応してしまったことは間違いない事実。
それに驚いた。
しかもそれはその一度限りのことではなく、何度も同じような経験をするうちにもう観念した。
俺は手塚に惚れている。
そう結論付けるしかなかった。
男同士の恋愛がそう簡単なことじゃないっていうのは、まだガキの俺でも容易に想像がつく。
しかも俺が思いを寄せる相手はあの『手塚国光』で。
この恋が成就する可能性は限りなくゼロに近い。
そう思っていたのに。
手塚が俺を好きだなんて、それはほとんど奇跡みたいなことだと思う。
そう言ったら、手塚は大袈裟だと馬鹿にしたけど。
キスは何度もした。
(だけど、触れるだけのごく軽いやつ)
抱きしめて、身体にも触った。
(ただし、上半身だけ)
手塚は嫌がらなかった。
(少なくとも外見上は)
多分、欲しいと思っているのは俺だけじゃない。
「多分」がついてしまうのは、ちょっと情けないけれど。
だが、その先へ進むのはそう容易いことではなかった。
おそらく、手塚は未経験だろうから、リードするとしたらそれは俺の役割なんだろうなと思う。
それでもまだ迷うのは確信が持てないからなのだろうか。
これが間違っているのか、正しいのか。
そこにつまづいている限り、先はない。
だから今は、後ろめたさに蓋をしてでも俺は一歩踏み出そうと思う。
答えなんかどうせすぐに見つかりはしないのだから。
2006.04.29
タイトルがPROLOGUEなのは本当にこれが「プロローグ」だから。実はこれの仮タイトルは「初お泊り冬編」でした。ようするにだな。二人の初えっちの冬バージョンを書こうと思っていたのですな。
でも一人語り部分が長くなりすぎて、本編にどうつなげていいのかわかんなくなって放置してました。本当はこの後に「お泊り話」が来るはずだったのですよ。もー面倒になっちゃったので、このままアップすることにしました。
これでようやく本編に取り掛かれる。あーすっきりした。