STOP MOTION

乾は俺を見つけるのがとても巧い。

休み時間の廊下や、
部活へ向かう校庭の脇の道。
しんと静まり返った図書室。

俺がどこに居ても、最初に声をかけてくるのは決まって乾の方だ。
視力は乾より俺のほうがいいはずなのに。

昼休みの屋上で、そう乾に言うと、視力の問題ではないのだと反論された。
「じゃあ、何が問題なんだ」
俺がそう言い出すのを待っていたように、乾は両手をポケットに入れたまま、にやりと笑って見せた。
「注意力とか、関心度の差かな」
「俺が不注意だとでも?」
「んー。ちょっと違う」
乾は目を細めて俺を見る。

「会いたいと思う気持ちの差、だね。俺はいつでもどこでも手塚を探してるから」

風が吹いて自分の髪の毛が視界を邪魔する。
くすりと小さく笑う声がして、乾の指が俺の前髪をかきわけた。
「俺はすぐに手塚を見つけられるよ」
幸せそうに笑う顔が無性に腹立たしくて、俺は乾に背中を向けた。



確かに俺は乾ほどには上手にお前を見つけられないけれど。
だからこそ、俺が近くにいることを知らないままで、誰かと笑い合っている横顔を見るのはとても楽しい。

振り向くなと思う。
俺に見せる顔とは少し違う表情のお前を、もうしばらく見ていたい。
声をかけずに黙っているのはそのためだ。

だけど、俺はここにいるのに乾が気づかないままなのも悔しくて。
いつの間にか、こっちを向けと念じたりする。

そして、本当にそれが通じたかのように、乾がゆっくりと振り返る。
視線が俺を捕らえて、少し驚いた目をして、それがやがて柔らかく撓んでいく。
そのときの顔が、とても好きだ。


俺がそんなことを思っていることを知らないくせに。
自分だけが何もかもわかっていると思っている。
自惚れるのもいい加減にしろ。

鉄の扉を目指して歩きだすと、後ろから乾が追いかけてくる気配がした。
きっと俺が怒っていると思って焦っているんだろう。


今、俺がにっこりと笑って振り返ったら、乾はどんな顔で俺を見るのだろうか。


2006.3.8

恋は人を「馬鹿」に変えてしまうのよー。それはこの二人でも例外じゃないのよー。

珍しく「手塚」一人称。私は、手塚を「俺」で語らせることがすごく苦手なんですよ。しっくりこなくて。滅多に書かないので、なんだか照れます。