■一夜2
※「OFF LIMITS」「一夜」の続きです。先にそちらを読んでからどうぞ。16禁ですのでご注意。
心臓の鼓動は、人を眠りに誘うらしい。
それは母親の胎内に居た頃を思い出して安心するからだという。
本当かどうかは知らないけれど、確かにこのリズムは心地よい。
乾の心音を聞いているうちに、力の入らなかった体が少しずつ自由を取り戻してきた。
手塚はいたわるように自分を抱き続ける乾の背中に手を回した。
汗が引きかけて、少し冷たい膚に手が吸い付く。
「…身体、平気?」
「ああ。心配いらない」
昔と変わらぬ気使いに、手塚は顔を見られないように微笑んだ。
過去のことは忘れろ、と言われたのに。
「手塚の明日の予定は?」
「特に何もない」
「誰かと会ったりしない?」
「ああ」
乾の指が手塚の髪をかきやり、自分の額とつきそうなほど顔を近づけてくる。
「じゃ、少しくらい無茶しても大丈夫かな」
「…無茶って」
「うん。そういう意味」
口許だけでくすりと笑う。
「お前は明日も仕事があるんじゃないのか」
「今日は金曜。明日も明後日も休みだよ」
言われて、漸くそうだったかと気づく。
「今日は、手塚を離せそうにない」
髪をかきあげていた手が、今度は手塚の頬を包み込んだ。
「…いいか?」
優しさの中に、はっきりとした欲望を含ませた言葉を聞かされて
冷めかけていた膚に熱が戻りそうになる。
手塚は黙って頷いた。
手塚の肩に手をかけ、乾が覆い被さるようにして体重を預ける。
そして、片方の指先が手塚の唇をなぞる。
「多分、もう歯止めがきかない」
「それでいい」
手塚が答えるのを待って、乾は啄ばむような口付けを落とした。
それが合図だったように、唇と指先が手塚の膚をまさぐる。
少しずつ呼吸が荒くなり、肌が汗ばんでくるのが自分でもわかる。
欲しがられているのがわかるから、手塚自身も欲しくなっていく。
腕を伸ばして、同じように湿っていく身体を抱きしめると
乾は黒い瞳を細めて、満足げに笑った。
ついさっき、乾に抱かれたとき。
ただひたすらに乾の腕の中にいられる喜びを感じたかった。
もう一度、ここに戻ってこられた実感が欲しかった。
それだけで十分過ぎるほど嬉しかった。
だが、今は違う。
柔らかさを削ぎ落とした鋭角な顔の輪郭。
明らかに厚みを増した胸。
引き締まった腹筋と、力強い腕。
完成型の男の躯になった乾がどうやって自分を抱くのか。
それを知りたかった。
「手塚、顔がさっきと違うよ」
乾の言葉に、胸がざわめく。
もしかしたら、欲望がそのまま顔に出てしまっているのかもしれない。
だが、それを今更隠す必要などない。
「今のほうが、気持ちが良さそうだ」
仕方ないだろう?
本当に気持ちがいいのだから。
手塚を思うままに操作している、当の本人にそう伝えてやる。
「お前の…せいだ」
お前が俺を煽るから、欲望を隠せなくなる。
そう言ってやりたかった。
「すご…い、殺し文句だな」
くくっと声を押し殺して笑い、それから深いキスで手塚の唇を塞いだ。
息が続かず唇を離そうとすると、乾はそれを許さず更に舌を絡める。
抱く腕の力が一層強くなり、手塚は胸を喘がせた。
「俺も、手塚のせいでこうなってる」
乾は上半身を少し起こして、両腕を手塚の左右に置いて身体を支える。
腰から下だけが手塚に密着し、熱く昂ぶった乾の一部が同じように勃ちあがった場所に押し当てられた。
びくっと全身が震えた。
「い…ぬい」
「わかる?」
ふ、と低く笑ったあとに乾がゆっくりと腰を動かしだす。
ひどく熱い塊が手塚を嬲る。
「…あ…あ」
乾が上半身を起こしたせいで、手塚はすがるものを失った。
かわりにシーツを強く握り、その猥らな刺激に耐えた。
どんどん息が荒くなり、触れている部分がより熱く固くなっていく。
あからさまな自分の反応が恥ずかしくて、身体を離してしまいたい。
だが、実際は身動きすることもままならない。
動けば、きっとそれが新たな刺激になるのは明白だから。
せめて乾の視線からだけでも逃れたい。
手塚は必死で顔を背けた。
「…そんな顔されたら…たまらないな」
乾は耳元に顔を寄せ、囁く。
頭の芯まで溶かすような甘い声がした。
「挿れていい?」
頷くのがやっとだった。
腰から下は痺れ切って、身体の奥は痛いくらいに疼いている。
このままだと気が狂いそうで、早くどうにかして欲しかった。
乾は動けずにいる手塚の身体をやすやすと抱き起こし、うつ伏せに寝かせる。
そして、首の後ろから背中へと唇を這わせた。
「背中、見たかったんだ」
囁きとともに吐息がかかり、背筋がぞくぞくする。
抑えようとしても、勝手に声が出てしまう。
掴んだシーツが作る陰影で、洩れた声をこもらせた。
「は…」
「声出していいって言ってるのに」
強情だな、と乾が笑う。
今自分を許してしまうと、際限なく乱れていきそうで怖かった。
だが、それも時間の問題なのかしれない。
こんなにこの身体は狂おしいくらい乾を求めている。
さっきと同じように、溢れ出した雫で手塚の奥を濡らしていく。
指先が抜き差しされるたびに、手塚は膚を戦かせた。
限界まで焦らされて、いっそこのまま達してしまいたいと思ったとき熱い先端が押し当てられ、そのまま乾が侵入してきた。
「…う…」
信じられないほど固く熱いものを突き立てられ、一瞬呼吸することさえ出来なかった。
違う。
さっきとは。
内臓が押しつぶされるような圧迫感に加え、わずかな痛みもある。
だが、それすらも気持ちがいいと言ってよかった。
やっと身体を合わせられた喜びを感じるだけではなく、
繋がった部分から溶け出してしまうような強い快感。
それに溺れそうだった。
「手塚…」
甘い響きで名前を呼びながら、乾は抽挿を繰り返した。
貫かれるたびに、痺れるような快感に全身が支配される。
だが、それに酔いながらも自分から意識して中にいる乾を締め付ける。
欲しい、と乾に伝えたかった。
そして、どれだけ自分が感じているかを知って欲しかった。
乾以外を知らないわけではない。
だが、ここまで快感を与えてくれるのは乾しかいない。
本当に好きな相手と身体を繋ぐということは
こんなに強い喜びを感じるものなのか。
ここまで求められている自分の身体を愛しいとさえ思う。
自分でもそこが感じるなどと知らなかった場所を攻め立てられ、
上ずった声を上げてしまう。
反応を示してしまったその場所を、乾は何度も執拗に刺激する。
手塚が乱れていく様を、楽しむかのように。
それでもいい。
この男の前でなら、何もかもさらけ出せる。
支えられている腰には、指が一本ずつ数えられる程強く食い込んでいる。
その力強さを感じ、思う。
どれほど激しくすがりついても、
この腕ならきっと、少しも揺るがず抱き返してくれるだろう。
不安を忘れさせて欲しくて抱かれたこともあったのに、
今は微塵もそんなことを感じない。
心も身体も、胸が塞がるほどの悦びで満たされている。
乾
溺れていいか?
ずっと、
ずっと、
お前に溺れ続けることを許してくれるか?
口に出せない思いは、手塚の身体を激しく震わせた。
波のように押し寄せる快楽に、何度も意識が遠のく。
それでも喉は勝手に乾の名前を呼び続けている。
強く締め付けて、乾の律動を内側で感じたい。
自分を形作る輪郭を捨て去って、このまま一つに溶け合ってしまいたい。
「…ああ…!」
激しさを増した抽挿に手塚の身体が弓なりに反った。
そして、乾の手の平を白濁で濡らした。
それを追って乾も極まり、荒い呼吸とともに手塚の中に精を吐いた。
乾の欲望の証が自分の内側に注がれているのを、手塚は身体の奥深いところで感じていた。
乾の全てを受け入れられた。
それを確かめられたことに手塚は安堵した。
好きだよ
柔らかい雨の雫のような優しい声が身体に染み込んでいく。
足に血を滲ませながら彷徨ったあげくにようやくたどり着いた場所。
それは乾の腕の中だった。
手塚は大きく息を吐いた。
そして再び愛しい男の心音に耳を傾けたまた、心地よい眠りに落ちようとしていた。
こんな夜が、この先ずっと続けばいい。
そう願いながら。
2004.2.1
二発目。(ストレートすぎますよ、SASAKIXさん)
展開を変えてしまいましたが、「一夜」はもともとはこれくらいの描写でした。消しちゃった、と書いたところ「それが読みたかった」というご感想をいくつかいただいたので、じゃあ思い出して書いてみようというわけでこれを書きました。タイトルどうしようかと思ったんだけど、同じ夜なんで単純に「一夜2」。芸がなくてすみません。
調子に乗って書いちゃいましたが、蛇足でしたかねえ(笑)
さあ、本人が「エロ過ぎ!」と照れまくった箇所はどこだ!良ければ探してみてください(笑)
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