■メイクラブ
背中から回された腕に力が入る。
無理矢理ではなく、ごく自然な仕草で腰を抱き寄せようとしている。
その腕を外し、身体を反転させて離れると、乾と目があった。
どうしたの、と言いたげな表情だったので、理由を言ってやることにした。

お前の腕の中は居心地が良すぎて、時々無性に腹が立つ。
そう口に出して答えると、乾は「なんだよ、それ」と呆れたように言い、唇の端だけを少し持ち上げた。
眼鏡のない顔で、そういう笑い方をすると、とても意地が悪そうに見える。
手塚はそんなときの乾の顔がとても好きだ。

「心地いいなら素直に楽しめばいいのに」
乾は片腕を枕にして、くすくすと笑った。
そうしたくないのは同性であるがためのジレンマなのだろうかと一瞬頭をよぎったが、すぐにどうでもよくなった。

「お前はどうして俺と寝るんだ?」
「手塚が好きで、手塚とやると気持ちがいいから」
直球の問いに対し、同じようにストレートな言葉が返ってきた。
「お前にしては当たり前な答えだな」
手塚はひとつしかない枕を自分の顎に敷いて、乾を見つめた。

「だって、本当にそうだから仕方ない」
「俺以外とやっても気持ちはいいんじゃないのか?」
嫌味でもなんでもなく、そういうものではないのかと思ったので、聞いてみた。
乾は別に怒る様子も見せず、淡々とした口調のままだ。

「まあ、確かに手塚以外とやってもそこそこ楽しめるとは思うけどね。でも気持ちの入り方が違うからな」
「違うのか」
「違うよ」
乾はその言葉を待っていたように、ふっと目を細めた。

「セックスってさ、共同作業じゃない?」
「色気のない表現だな」
そうかなと低い声で囁くように笑う。
「でもそうでしょ?ただ欲求を処理するだけなら一人でできるけど、セックスは違う。相手がいて、初めてできること」
乾がセックスという言葉を使うたび、どこかがざわざわする。
改めて、自分が乾としていることはそれなのだと意識してしまう。

「ちょっと気持ちよくなりたいのなら、相手は誰でもいいかもしれない。だけど、深く味わいたいなら、お互いをさらけ出さなくちゃならない」
乾の手が伸びてきて、手塚の裸の肩をすっと撫でた。
「物理的に裸になるってことだけじゃなくて、内側も全部相手に見せてしまうことになる。それが出来る相手はそういるものじゃない」
手塚を見つめる乾の目が、そうだろう?と問いかけていた。

「自慢するほど経験があるわけじゃないけど、手塚とが一番良かった。もう、他の人間とする気は起きないよ」
「俺には何も言えないな。お前しか知らないから」
肩に置かれたままの掌の熱を感じながら、あえてそこを見ないようにした。

「出来れば、ずっと俺しか知らないままでいて欲しいけどね」
「そういうものか」
「そういうものだよ」
乾の片手は肩から首に移動して、そのまま項の中に潜り込んだ。
ぞくりとした感触を無視する事は不可能で、身体が微かに揺れた。

「手塚はどうして俺と寝るの」
少しだけ身体を近づけて、乾は切れ長の目を細めて笑う。
やっぱりその顔は意地悪そうだ。

「お前にしか欲情しないからだ」
髪を撫でる手を取って、掌に口付けると乾はくすくすと笑い出した。
「すごいこと、言うんだな」
「事実だ」
「尚、すごい」

口付けたばかりの掌は、するりと逃げて手塚の頬を包んだ。
「ダブルスのときの俺と、ベッドの中の俺では、手塚のパートナーとしてどっちが優秀?」
「そんなことは自分で考えろ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
逃げる間も与えられずに、降ってきたキスはとろける様に甘く、すぐに身体から力が抜けた。
腰骨をなで上げられ、背中を抱かれて、いつに間にか自分から乾を抱きしめてしまう。
今度は乾ではなく、そんな自分が腹立たしかった。
2006.08.14
高1くらいのイメージで。ダブルス経験済み。

この手塚は乾が好きすぎて、頭にきてるんです。乾馬鹿なんです。