一年の間に、記念日だとか祝日だとか、特別な日は何度もある。
自分にとっての本当に重要な日というのは、実はそれほど多くはない。
もうすぐ、その特に大事な日がやってくる。
今年の10月7日は、どんな一日になるのだろう。
それを想像するのは、とても楽しい。
ここ数日、ぐずついた天気が続いていたが、今日は朝から綺麗に晴れた青空を見ることができた。
雨で空気が洗われたのか、いつもよりもずっと青い色が澄んでいるような気がする。
手塚の誕生日を迎えるのに、ぴったりの天気だ。
これで3年連続で、手塚の誕生日を一緒に過ごしていることになる。
去年は、二年続いて会えたことを奇跡だと思った。
それならば、三年続いたこの現実はなんと呼んだらいいのだろう。
だが、勿論これはただの幸運すぎる偶然ではなく、乾には想像できないくらいの無理をして、作ってくれた時間なのだとわかっている。
それを奇跡と呼んでしまったら、手塚に申し訳ない。
あえて言うなら、そうまでして乾に会いたいと思ってくれたことが、奇跡かもしれない。
昨日の夜に帰国して、まっすぐに自分のところに来てくれた手塚に告げた言葉は「おかえり」だった。
「ただいま」という返事を聞いたとき、胸の奥が熱くなった。
手塚の体温を感じながら眠るのは、久しぶりだった。
一緒に迎えた朝は、手塚の誕生日。
こんな幸福な一日の始まりは、そうそうないだろう。
今日は平日だったため、昼間はそれぞれ用事を済ませ、夜になってからゆっくりと誕生日を祝うことにしていた。
手塚には、合い鍵を渡してある。
なるべく意識しないようにしていたが、実際にはそんなことは不可能で、ずっと手塚のことを考えてしまっていた。
自分の部屋に戻ってくるまでの時間は、とてつもなく長く感じた。
夜の7時前にはどうにか帰宅できたが、手塚の方はすでに乾の部屋で寛いでいた。
半日ほどで用事を済ませた後は、ゆっくりと過ごしていたのだと言う。
本当は、どこかに食事に行こうと誘うつもりだった。
しかし、すでにラフな服装で寛ぐ手塚に、また出かける支度をしろと言えなかった。
長旅をしてきた手塚を、わざわざ疲れさせるのは申し訳ない。
だから、乾は、手料理を振る舞うことにした。
料理はそれほど得意ではなく、凝った物など作れない。
サラダとパスタと、手羽先をグリルで焼いたものという簡単なメニューだ。
それでも手塚は美味しいと、笑いながら言ってくれた。
夕食のあとコーヒーを淹れ、少しだがチーズを切って出した。
バースデーケーキがないので、せめてこれくらいと思ったのだが、多分手塚は気にしてないだろう。
手塚は自分の誕生日を祝って欲しくて、日本に帰ってくるわけではない。
乾に、『祝わせて』くれるために来てくれるのだ。
VネックのTシャツに、薄手のカーディガンを羽織った手塚は、とても穏やかな表情をしていた。
少し眠そうにも見えたが、疲れている様子はない。
この時間を楽しんでいてくれるといいのだが。
2013.10.20
2に続きます