元同級生達の遠慮の無い人物評は盛り上がる一方だった。
特に乾の作ったオリジナルのドリンクの想い出は今も強烈らしく、忘れたくても忘れられない味だと飲んだ全員が証言した。
それに比べれば乾本人の評判はそれほど悪くはない。
特に後輩からは、試験前に勉強を見てもらったとか、練習につきあってもらったという声が多く聞かれた。
ただ、理屈っぽくて話が長いとか、見た目が少々怪しかったという正直な意見もあった。
まとめれば、ちょっと変ったところもあるが良い奴というところに落ち着いた。
「なんだか故人を偲んでいるみたいだぞ、この流れ」
「乾が聞いたら怒るね」
大石と菊丸が笑いながらそんなことを言うので、手塚も一言付け加えた。
「いや、あいつは絶対面白がる」
「確かに」
二人は声を揃えて答え、また笑い出した。
元の部員達から語られる乾像は、手塚には興味深かった。
細かく言えば多少の違いはあるけれど、概ね同意できる。
面倒くさそうに見えて、実はつきあいやすいというのは、その通りだと思う。
が、乾という男の面白いところは、もう少し深くつきあうと実はやっぱり面倒くさいところなのだ。
そう。
彼らの第一印象は、間違っていないということになる。
それらの事実を上手く説明できる気がしないので、みんなには言わなかった。
今頃、噂の的である乾は、盛大なくしゃみでもしているかもしれない。
手塚がマンションについたとき、時刻は10時を30分ほど過ぎたところだった。
呼び鈴を押すと静かにドアが開き、見慣れた眼鏡の男が手塚を出迎えた。
「ただいま」
「おかえり。思ったよりも早いご帰宅で」
乾は10月だというのに、半袖のTシャツを着ていた。
「三次会はカラオケだと言うから逃げてきた」
手塚は昔からカラオケが大の苦手なのだ。
部屋に上がりジャケットを脱ぐとさりげなく手を伸ばして来た。
気が利く男だ。
「いいのか。主役がいなくても」
受け取ったジャケットをハンガーにかけながら乾が笑う。
濃い青のTシャツが良く似合っていた。
「いいんだ。そこは大石が上手いこと言ってくれたから。そもそも俺の誕生日なんて、たんなるダシに使っているだけなんだから」
それより、と乾の方を向き直って言った。
「みんな、怒っていたぞ。お前が来ないのはけしからんと」
「まさか。そんなことを言うのは英二くらいだろ」
正解だ。
「当たりかな?」
ふふっと笑う乾の片方の目は真っ白なガーゼでふさがれている。
大石がみんなに説明したように、乾は確かにものもらいを切開した。
だが、実際に施術したのは、みんなに伝えた日とは違っていた。
本当は今日は切開してから三日目で、飲み会にはどうしても行けないというわけではなかったのだ。
痛みや腫れはもうずいぶん引いていると乾自身が認めている。
ではなぜ行かなかったのか。
なんのことはない。
本人が参加を嫌がっただけだ。
2014.10.26
4に続きます