■LONG DISTANCE CALL3
腰の一番細いところに手を置いて湿った膚を撫で上げると、手塚の身体が小刻みに震えた。
今の手塚はどこに触れても、敏感に反応する。
時間をたっぷり使って、そうなるように乾が快感を与え続けたから。
「お前は…限界なんじゃ、なかったのか」
中々先に進まない執拗な愛撫に喘いで、手塚の言葉は途切れがちだ。
乾は手塚の額から流れる汗を拭ってやりながら、にやりと笑った。
「…だからだよ。すぐに終わっちゃうのはつまらない。じっくり味わいたいんだ」
そう言いながら乾は自分の親指を舐めると、濡らした指の腹で手塚の胸の突起を捏ねる。
くっと息を詰めて手塚は身体を硬直させた。
手塚が身動きする度に、汗を吸って捩れたシーツが複雑な模様を作り出す。
そして他にすがる物がない手塚の指先は、強くそれを握り締める。
その光景を見るだけで乾の体温は確実に上昇した。
爪先から髪の毛まで。触れるところは全部触った。
手だけじゃなく、唇や舌も使って。
固く勃ちあがったものを軽く握ったとき、手塚は白い喉を見せて大きく身体を仰け反らせた。
そして、一番奥まった場所に指を差し込んだときは、必死で乾にしがみ付いて来た。
それでも、乾は「まだだ」と言った。もっともっと手塚を乱れさせたい。
手塚も自分を求めているという実感が欲しかった。
それを味わうためにしては、ちょっとやりすぎかもしれないとは思ったが。
「いい…加減に…しろ」
手塚は固く目を閉じて身体を戦かせている。いかにも切なそうな顔は乾をそそる一方だ。
「ん?先に手塚が限界?」
「見れば…わかるだろう」
それは手塚の言う通りだ。
両手は固くシーツを握り締め、軽く曲げられた足には力が入って緊張しているのがはっきりわかる。
汗で濡れる額には何本も前髪が張り付いていて、引き締まった腹筋は波が立つように小さく痙攣している。
「うん。わかるよ」
乾は手塚の隣りに身体をずらし、腰のあたりへと座りなおす。
そして、曲げられていた手塚の膝を伸ばすと、そのまま手塚の股間へと顔を埋めた。びくっと手塚の身体が反応を示す。
乾は勃ちあがった手塚のそれを迷わずに口に含んだ。
「いぬ…い?お前」
そうされることを予測していなかったのか、手塚の声には戸惑いが滲んでいた。
「いいから、任せてくれ」
「でも」
「黙って」
乾が先を続けると、手塚はもう抵抗出来なかった。
荒い呼吸と、時折押し殺した声だけを洩らす。
頭が仰け反っているからここから顔が見えないが、その表情には想像がつく。
きっと恐ろしく艶かしい顔で手塚は喘いでいるはずだ。
手塚は恐らく気づいてない。そんなときの自分がどれくらい扇情的か。
普段の冷たく整った顔が、苦痛と快感の狭間でわずかに歪みを生じさせる。
その顔がたまらなく好きだ。
間違いなく、今この瞬間も手塚はその顔をしている。
ぞくりと背中を這い上がる欲望を、乾は口腔にあるものへと注ぎ込んだ。
「あ…あっ」
短い声と同時に、手塚は堰きとめられていたものを一気に乾の口の中に吐き出した。
手塚が達した余韻で肩や胸を大きく上下させている間に、乾は手塚の放ったものを飲み下し唇を指で拭った。
そろそろ自分の方が限界だ。
乾がいつものように手塚の中に入るための準備を始めると、手塚が腕を伸ばし小さな包みを乾から奪った。
「今日は…いらない」
薄く開く手塚の瞳は濡れている。
「いいのか?」
「お前が…それで、いい…なら」
わずかに微笑む赤い唇もやはり濡れていた。
「うつぶせて」
プラスチックの小瓶の蓋を開け、指先にとろりとした透明の液体を絡める。
自分の言葉に従って、手塚は背中を向けている。
肩甲骨の間には汗が溜まり光っているのが薄暗がりの中でもよくわかる。
濡らした指先を奥に差し入れ、濡れていない方の指は手塚の背骨を辿る。
指の動きに呼応して、手塚の背中が何度も震えた。
手塚の腰を持ち上げて、限度ぎりぎりまで昂ぶった自分のものを後ろにあてがう。
途端に手塚の細い腰が跳ね上がるが、すぐに両手でがっちりと掴まえる。
「挿れるから、力を抜いてくれ」
手塚の肩が大きく動き、息を吐いているのがわかった。
それと同時に手塚に中にゆっくりと侵入した。
「あ…ああ」
熱くきつい場所を自分の一部が押し開く。
くらくらするくらい気持ちがいい。
息を詰めながら挿入を続け、一番きついところを通り抜けるとそのまま全部を手塚の中に収めた。
苦しげに浅い呼吸を繰り返す手塚の耳元で乾は囁く。
「手塚」
返事はないが、構わず先を続ける。
「俺は…何度やったかわからないくらいお前を抱いたけど、その日一番最初にお前に入るときは今でもすごく…どきどきするよ」
何度か短く息を吐いたあとで、手塚はやっとといった風に声を出した。
「俺も…そう…だ。お前が…入ってくる…度に…緊張…する」
「それは…嫌な…感じなのかな?」
「そうじゃ…ない。怖い…ような、期待、してるような…。上手く…言えない」
「いや、わかるよ」
それで十分だ。
言葉が足りない分は、こうしていればわかることだ。
上気した肌にまとわりつく汗も、繋がった部分の灼熱も、途切れる掠れた声も全部がそれを証明している。
欲しいのはいつだって、お前だけなんだ。
手塚。
お前だけが、俺を滾らせる。
「手塚」
手塚の名前を合図にして、抽送を始めた。
浅く深く、何度も貫いた。
手塚の上げる声が次第に掠れ、終いにはただの吐息になるまで繰り返した。
それでも手塚は一度も「止めろ」とは言わなかった。
だから乾は何も考えられなくなるくらい、手塚に溺れた。
手塚の中に全てを放出しても、乾は手塚の身体を抱く力を緩めることが出来なかった。
「乾」
手塚の声で我に返った。
少しの間、意識が完全に空白だった気がする。
乾はまだ中に挿入したままで、手塚の背中に乗っていることに気づいた。
「乾?」
「あ、ごめん。重いか?」
「いや…。違う。眠ってるのかと思った」
喉が涸れたのか、語尾が掠れていた。
「寝てたわけじゃないけど、ぼうっとしてた。今抜くから待って」
声を掛けてから自身を抜き取ると、手塚はびくっと背中を仰け反らせた。
「大丈夫か?」
「…ああ」
ただの肯定する言葉だとはわかっていても、その声の艶がさっきまでの喘ぎと酷似していてざわざわする。
手塚は自由になった身体の向きを変え、隣りにいる乾の胸の凭れるようにした。その背中を支えて、額にかかった髪を払ってやる。
だるそうな顔は、流石に疲れを隠せないらしい。
「やりすぎだった?」
「…一緒にいたって、1週間くらいやらないことは…あったと思うが」
それは遠まわしにやり過ぎだったと言いたいのかと乾は苦笑した。
「うん。それはそうなんだけど」
確かにその通りだ。
いくら手塚が傍にいるからといっても、毎日やっているわけでない。
ちょっとしたタイミングのずれで、一週間や10日くらいやらないことだってある。
「でも違うんだ。手塚が手を伸ばせばすぐに触れられる一週間と、全く会えない一週間じゃ」
会いたい気持ちばかりが募って、たまらなくなる。
手塚と長く離れていた日々を一体どうやって過ごしていたか、今では信じられない気持ちだ。
「こういうことがあると実感するよ」
「何を?」
「手塚が傍にいてくれて良かった」
「そう…か」
「手塚をここから帰さないでいいってことが嬉しい」
手塚はきっといつものように、「馬鹿」とでも言うのだろうと思っていた。
だが、予想は外れた。
手塚の左手が乾の身体を引き寄せ、すぐに右手も背中に絡みつく。
そしてそのままぎゅっと力を入れて乾を抱きしめた。
「どこにも行かない」
静かだが、強い声。
たったそれだけの短い言葉に、乾は支配された。
身動きもままならい。呼吸すら忘れた。
「ここに、いる」
また、やられた。
油断すると、こうだ。
俺の下らない小手先だけの変化球などは、手塚の投げる直球には敵うはずはないのだ。
「乾」
手塚の掠れた声が、身体の真中まで響きわたる。
どうしてくれる。
たった今終わったばかりなのに、またお前が欲しくなる。
「手塚、駄目だよ。俺、勃っちゃう」
「俺は構わない」
「…疲れただろう?」
「それはお前も同じだ」
手塚は乾の首の後ろに手を回し、そっと唇を合わせた。
「…俺がお前を待っていなかったとでも思っているのか」
「知らないよ。この先どうなっても」
「お前こそ。途中で逃げ出すなよ」
強気な手塚の発言に乾は笑った。
今日の自分は少しだけ体力的には不利だったのだ。
勝てるのは腕力と多少の技術。
だが、本気になった手塚はかなり手強いだろう。
起き上がった手塚の両腕が乾をシーツに押し付ける。
そして、形のいい唇の端を少し引き上げて乾を見下ろした。
その目には今まで見たこともないような色気がある。
これは厳しい勝負になるかもしれないと乾は背筋をざわつかせながら覚悟した。
もっとも、この勝負で手塚に負けるのなら少しも悔しくはない。
2004.08.23
エロパート、完結編。
あらあら、ホントにエロだけですね(笑)。しかもこの後こいつらは一晩中頑張ります。
この人達、どうやって勝敗きめるつもりなんですかねえ?先にイった方が負け?まあどちらにしろ気持ちいいんだから勝とうが負けようがどっちでもいいんでしょう。
エロパートを読みたいとメッセージを下さった方々どうもありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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