■03.Outline
今年の6月3日は土曜日だったので、泊り込むつもりで金曜の夜に乾の部屋に行った。
プレゼント代わりに缶ビールを6本とフライドチキン、それから一緒に見るためのDVDを持って。
こんなつまらないものなのに、乾は嬉しそうな顔でそれを受け取った。

持ってきたDVDは古い洋画だった。
今までに何度見たかわからないくらい好きな映画だが、乾はそれを見たことがないと言った。
半年ほど前の会話だから、乾はもう覚えていないかもしれない。
だが、そのときからいつかこの男にも見て欲しいとずっと思っていた。
リボンをかけるどころか、買ったときの安っぽいビニール袋のまま手渡したDVDを、乾は今すぐに見ようと言い出した。

狭いアパートには不似合いなほど大きなテレビの前に並んで座り、持ってきたチキンとビールを味わいながら映画を見た。
部屋は少し暗くしてあるので、テレビの画面がとてもまぶしく見える。
横目で見た乾の顔にも光が反射していた。

乾の横顔はとても綺麗な線を描いている。
硬質な稜線はどこか清潔な匂いがする。
だが、顎から喉へと流れる線はむしろ扇情的だ。

そのせいだろうか。
無意識に乾の首を抱きたくなるのは。

両腕を回して、肩に顔を埋め、鎖骨に歯を立てる。
短い乾の髪を指でかき回して、首筋に何度も唇を押し当てて。

記憶のままに乾の輪郭を視線でなぞると、乾が首を捻ってこちらを見た。

「映画、見てる?」
「いや。お前を見てた」
乾はふっと息を吐くように笑うと、片手を床について顔を近づけてきた。
「気がついてたよ、本当はね」
そして、唇が触れるほどに顔を寄せて囁いた。

「視線で愛撫されてるみたいだ」
「そのつもりだ」
端だけが上がった唇へ、噛みつくように口付けると眼鏡の奥の目が楽しげに細くなった。

長いキスの最中に小さな電子音が聞こえた。
多分、それは日付が変わったことを知らせる音だ。
唇を合わせたままで、乾の首に腕を回し思い切り引き寄せた。
心得たように乾の体重がかかる。
そのまま倒れこみ、身体を受け止めた。

今度は視線ではなく、指と掌で乾の輪郭をゆっくりと確かめる。
乾の持つ綺麗な輪郭をこの身体が忘れてしまわないように。
もう止めろと、乾が自分から言い出すまで、ずっと。
2006.06.14
どっちがプレゼントをもらってるんだか。