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■記念日オマケ

「ただいま」
いつも通りの声を掛けてドアを開けると、やっぱりいつもと同じ表情の手塚が立っていた。
「おかえり」
「あれ、受け取ってきたよ」
と俺が言うと、手塚はほんのちょっとだけ口角を上げた。
きっとそれに気づくのは俺くらいだと思う程の僅かな角度。

「見る?」
「ああ」
部屋の中に入って、持っていた角封筒をテーブルの上に置いた。
「開けていいか?」
「どうぞ」
俺がネクタイを緩めながら答えると、手塚は注意深く封筒の口を開き中身を取り出した。

「久しぶりで見たな、こういう台紙付きの写真」
濃い緑色の表紙を手塚の白い指がなぞる。
「そうだな。最近じゃ、ちょっとした写真ならデジカメや携帯で済ませちゃうからね」
「風情がないな、デジタルじゃ」
「まったく」
いつもは何でもデジタルの俺が言う台詞じゃないけど。

手塚は写真を持ったまま片手で椅子を引き、そこに座った。
そしてそっと表紙を開き、間に挟まっている薄紙を丁寧にめくった。

少しの沈黙。

「お前は写真で見る方が、ちょっと良く見えるんじゃないか?」
「何、その言い方」
どれどれ、と俺も手塚の背後から写真を覗き込んだ。

写真の中の手塚は椅子に座っていて、そのすぐ後ろに俺が立っている。
手塚の目は真っ直ぐにカメラを見据えていた。
印画紙に焼き付けても少しも失われない強い視線は、とても綺麗だ。

だけど。

「…手塚ににっこり笑えとは言わないけどね」
「なんだ?」
「でもせめてカメラを睨みつけるのは止めて欲しいなあ。記念写真なんだからさ」
手塚は憮然とした声で言う。
「睨みつけた覚えは無い」
「どう見ても睨んでます」
俺は手塚の肩に顎を乗せて、台紙の端を指先でとんとんと軽叩いた。

「…変だな。本当に睨んだ覚えが無いんだが」
「じゃあ、次は思い切りにこにこしてみて。手塚はそれくらいしてやっと普通の顔になるから」
「悪かったな。仏頂面で」
「ん?俺はそういうところも好きだよ」
片手で手塚を後ろから抱いて、もう片方の手で手塚の頭をくしゃりと撫でた。
これはお世辞じゃなくて、本当のこと。

手塚は黙って俺に撫でられていたが、少ししてから首を捻って俺を見上げた。
「毎年、これが一冊ずつ増えていくのか?」
「そうだよ」
「そうか」

手塚はしばらく俺を見つめた後で、ふっと目を細めた。
「来年はもう少し笑えるように努力してみる」

目は口ほどに物を言う。
手塚ほど、この言葉が相応しい人間はいないんじゃないかと思う。

俺は手塚の顎に手をかけて、そっと唇を重ねた。


わざわざ努力しなくても、今の顔で充分だ。
キスが終わったら、そう手塚に教えてやろう。

でも、きっと手塚のことだから、同じ顔なんか出来ないって文句を言うんだろうな。



2005.7.12
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オマケ。あのね、説明しなきゃきっとわかんないと思うのですが、実は手塚は写真の中の乾を見てちょっとときめいちゃいました(笑)。こうやってみるといい男じゃないかって思ったのね、きっと。

乾はいつも「俺の手塚は世界一綺麗で可愛い」と素で思ってますから。

バカップルでいいんだもん。4位と6位だからいいんだもん。(関係ないと思う)