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■FAKE

「どうして欲しい?」

ベッドの中で俺がそう聞いても、手塚がそれに何か答えることはごく稀だ。
ただ黙って目を伏せてしまったり、好きにしたらいいと小さな声で言うくらいのものだ。
いつもそうだとわかっているくせに、わざわざ手塚に問いかけるのは
「好きにしていい」という手塚の許可が欲しいからかもしれない。

今夜もいつもと同じだと思っていた。
薄暗い部屋の中。
洗い立てのシーツ。
パジャマ姿の手塚からはボディソープの香がする。
白い頬を掌で包んで、そのまま髪の中に滑らせた。

「今日は、どうして欲しい?」

まともな返事は期待していなかったので、既に俺の指は手塚のパジャマのボタンにかけてあった。
手塚はその手を軽く押さえて止めた。
「先に灯りを消してくれ」
「わかった」
これは今までにも度々言われたことなので慣れている。
部屋の灯りは消して、かわりにスタンドのスイッチを入れると、柔らかい橙色に部屋が染まった。

「もう少し暗くしてくれるか」
「…いいよ」
真っ暗にすると俺がつまらないので、表情が判別できるギリギリのところまで灯りを落とした。
「これでいい?」
「ああ」
返事を確認してからボタンを外すのを再開した。
肩からパジャマを滑り落とすと、手塚はくるりと俺に背を向けそのままシーツの上にうつぶせになった。
裸の背中に指を這わせると、かすかな反応が伝わってくる。
かがんでそこに唇を這わせてから、手塚に聞いてみた。

「後ろからがいいの?」
「ああ」
吐息の混じったような声にぞくりとした。
手塚の方から望まれたってことだけで、背筋がざわめいて鳥肌がたちそうだ。
あまりにもわかりやすい自分がおかしくなって、ばれないように声を出さずに笑った。

希望通りに、最初から最後まで後ろから抱いた。
背中から優しく抱きしめて、項や肩口にキスを落とし、
細い腰は両手で支え、何度も繰り返し貫いて、
汗で濡れた震える身体をつかまえて、手塚の中で登りつめた。

長い前髪で半分隠れた手塚の顔は艶かしくはあるが、表情が見えないのがやっぱり寂しくて。
こちらを向かせようと、力尽きたようにうつぶせる手塚の肩に手をかけた。
「…つっ」
びくっと手塚の肩が揺れた。
「えっ?」
思ってみなかった反応に、俺はうろたえた。

「痛かった?力、入れすぎたかな」
「いや、なんでもない」
手塚は片手で毛布を引き上げると、くるんとそれに包まって俺に背中を向けた。
「ほんとに?平気?」
「ああ」
どうも気になって仕方ないので、スタンドに手を伸ばした。
「今、明るくするから、ちょっと見せて」
「いい。やめろ」
咄嗟に俺の手を止めようとするのがますます怪しい。
構わずスイッチを入れて部屋を明るくすると、半端な姿勢の手塚を仰向けにひっくり返した。

「い…た」
手塚が顔を顰めるのも無理は無かった。
左の肩の付け根、鎖骨の端の直ぐ下は紫色に変色していた。
「ひどい色じゃないか」
白い膚にくっきりと浮かぶ鬱血の痕に息を飲んだ。
「どうしたんだ、これ」
「ちょっとぶつけただけだ」
怒った顔でそっぽを向くのは決まりが悪いからからだろう。

これを俺に見せたくなくて、部屋を暗くしろだの、後ろから抱けだの言ったのか。
そう思ったら、わざと不機嫌な顔を作って俺と目を合わせようとしない手塚が可愛く見えて仕方ない。
「ちょっとじゃないよ。見てるこっちが痛くなる」
笑いを堪えていうと、手塚はふんと鼻をならした。
「じゃあ、見なきゃいいだろう」
「そうはいかない。ちゃんと湿布した方がいい」
待っててと言い残して、身体を起こすと手塚は視線を外したままごく小さな声で「すまない」と言った。
声は情けないのに、顔がまだ怒ったままなのはきっと照れ隠しなのだろう。

それはまあいいとして。
わざわざベッドを抜け出して、湿布を貼ってやった恩人に向かって「冷たい!」と怒鳴りつけるのは人としてどうかと思うのだが。



2005.11.17
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バカップルです。いつものことですが。

文中で説明するのが嫌だったので、詳しく書きませんでしたが、横着して棚の上の重たいものを踏み台をつかわずにおろそうとして、失敗。うっかり肩で受け止めてしまったせいで打撲になったのでした。…ええ、体験談ですよ、私の。何度もありますよ、そういうことは。一番の大物はA3ノビ対応のでかいプリンタ。落下をくいとめようと、太ももで受け止めました。痛かったよ。はっはっは。

きっとね、手塚はえっちの最中もきっと痛い思いをしたでしょう。でもほら。声を上げるのが当たり前の状況だったので、乾は気づかなかったんですよ。うふふふふ。
それか、手塚本人が夢中だったので、痛みを感じなかったか。あ、そっちの方が萌えるかな。