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■SILENT NIGHT(R15)

乾は少し酔っていたのだと思う。
後ろから腰を支える掌や項にかかる吐息は、普段よりずっと熱い。
呼吸が荒くなるのもいつより早かった
途切れながら聞こえてくる自分の名前を聞くと、背筋がぞくりとする。

ああ。
どうやら自分も酔っているのだ。
全身があっという間に熱くなる。
きっと乾に負けないくらいに。





乾と二人切りで迎えた二度目の12月24日は、ホワイトクリスマスになった。
マンションの窓から、暗い空からふわふわと舞い降りてくる雪を並んで眺めた。
クリスマスはどこかに行こうかと乾は言ったけれど、滅多に無い雪景色をこの部屋から見られてよかったと思う。

世界中で一番心地のいい場所。
それがこの部屋だと言えば、乾は笑うだろうか。
白く曇った窓を指で拭うと、その手を乾が上から握る。
「冷えるよ」
「そうだな」
と答えると、乾は小さく笑ってから手塚の肩を抱いた。

食事を終えた後、飲みきれなかったワインを持ってソファに移動した。
テレビには手塚の知らない古い映画が映っていた。
音がするのはそれだけ。
今夜は窓の外も静かだ。
雪が雑音を吸収してしまったのだろうか。
こんな夜を過ごすのは久しぶりな気がした。

「手塚、酔ってる?」
隣りに座る乾はグラスを手に薄く微笑んでいた。
華奢なデザインのグラスが長い指に良く映えている。
「どうかな。自分じゃわからないが」
「顔、ちょっと赤いよ」
「そうか」
「手塚は酒に弱いわけじゃないのに、ワインだけ酔うのが早いよね」
「かもしれない。言われてみたら、顔が少し熱い」
自分の頬に触れると確かに少し火照っているようだ。

「襟、緩めたら?」
「え?」
手塚が持っていたグラスを乾が取り上げ、自分のと一緒に少し離れたところに置いた。
そして、自由になったばかりの手を伸ばし、手塚のシャツのボタンを外そうとする。
「何だ」
その手をどけようとすると、乾は僅かに口の端を上げた。
「じっとして」

ひとつ、ふたつとボタンが外されていく。
三つ目を外し終えると、乾は開いた胸に唇を近づける。
「うん。ちょっといつもより熱いかもね」
喋ると息がかかってくすぐったい。
「離れろ。熱い」
乾の肩をぐいっと押しやろうとすると、逆に体重を掛けられた。
あっけなく手塚はソファに横倒しになった。

咄嗟に左手は乾の着ていた服の背中を握っていた。
手塚の右の手首は乾が握っている。
体重の全部を乾はかけていない。
まだ乾は空いた腕で自分の身体を支えていた。

至近距離で乾と視線がぶつかる。
相変わらず、乾は薄い笑いを口許に浮かべていた。
だが、目は笑っていない。
深い色の瞳は何かを探るように細められていた。
手塚は、そういう乾の顔がとても好きだった。

どうせなら全部の体重をかけてくれればいい。
背中に回した腕に力を込めて引き寄せると、乾は心得たように身体を預けた。
全身で受け止めた重みは、いつも悔しいほどに手塚を安堵させる。
何時の間にか解き放たれていた右手で乾の頬に触れ、自分から唇を寄せた。
すぐに大きな掌が首の後ろを支え、より深いキスが帰ってくる。
鼻の奥に抜けたのはワインの香りだった。



湿った唇が首筋を這い、シャツを開いた胸元にもキスをされる。
歯の先が軽く鎖骨にあたる度に、手塚の肩がぴくりと動く。
同時に、シャツの裾から入り込んできた乾の手が素肌を撫で上げる。
ふ、と息が洩れる。
乾も同じように息を吐いたが、それは楽しげに笑ったせいだ。

絡みあう足の間に、硬くなったものが当たる。
きっと自分も同じようになっているに違いない。
意識すると尚更に息が上がった。
「手塚」
たっぷりと甘さを含んだ声で呼ばれた。
その意味はわざわざ聞かなくてもわかっている。

「…ここで…か?」
「嫌?」
「ベッドに行きたい」
「どうして」
「そっちの方が、楽だ」
「なるほど」
乾はくすくすと笑ってから、身体を離した。
急に少し寒くなる。
「わかった。いいよ。歩けるうちにベッドに移動しよう」
目の前に伸ばされた腕を掴むと、乾は軽々と手塚を抱き起こした。



酔いがまわったせいなのか、それとも別の事情のせいか。
ベッドルームに入って途端足が縺れ、手塚は服を着たままベッドに倒れこんだ。
「危ないな」
乾はくすくす笑いながら手塚の眼鏡を奪った。
そして自分の眼鏡を外しベッドの脇に置くと、着ていた薄いセーターを脱いだ。
中には何も来ていなかったので、すぐに上半身が裸になる。
寒いのが苦手な手塚と違って、乾は冬でも薄着で通す。
手塚も乾に倣って服を脱ごうとするが、指先に力が入らず上手くいかない。

「面倒になった。脱がせてくれ」
「任せて」
顔を上げると、乾は既に全部脱いでいた。
ベッドの端に膝をついて乾が上がってくる。
肘をついて足を伸ばす。
乾の手が手塚のジーンズのボタンを外した。
自分から腰を浮かせると、そのままするりと下ろされる。
乾はいつも手際よく手塚の服を奪い取ることが出来る。

当然シャツも脱がせてくれるものと待っていたら、乾は手塚の片足を軽く持ち上げ、既に反応を示している場所に舌を這わせた。
「乾、待て」
乾は手塚の制止を無視して、行為を続ける。
急に与えられた刺激に、びくりと身体を震わせた。
「乾。まだ…全部脱いでない」
「いいよ、そのままで」
「駄目だ。熱い」

手塚の願いは聞き入れられず、乾は更に深く咥えこんだ。
下腹部の深いところがじんと疼き、身体中が酷く熱い。
邪魔な服を早く脱いでしまいたくて、手塚はなんとか自分でボタンを外そうとした。
だが、その間にも続く巧みな舌の動きに翻弄され、とてもそれは出来そうに無かった。
服を脱ぐのを諦め、替わりに足の間に顔を埋める乾の頭に指を立てた。

しんと静かな部屋では、荒い呼吸が大きく響く。
なんとか抑えようと息飲むと、かえって生々しいごくりという音がした。
自分の喉が鳴らす音の淫猥さに眩暈がする。
酔いが完全にまわったのか。
それとも全身に広がったのは、快感と言う名前の毒なのか。

そのどっちでも、手塚にはもうどうでも良かった。
今は達することしか考えられない。
強く吸い上げられるのと同時に全身が麻痺したように震え、強くシーツを握った瞬間に吐精していた。


とにかく身体が熱かった。
纏わりつくシャツが邪魔で仕方ないが、自分ではどうすることも出来ない。
枕に顔を埋め、肩で息をしていると、乾が後ろから抱きしめてくる。
「ごめん。休ませて欲しいだろうけど、我慢してくれ」
俺も限界。
そう耳の横で囁かれた。

身体の下から回りこんできた掌が脇腹から胸までを一気に撫で上げる。
もう片手は同時にシャツの裾を捲くるようにして、腰骨の形にそって指を這わせる。
達ったばかりの身体は自分でも呆れるほど敏感で、堪え切れない声が洩れてしまう。
「もっと声、聞かせて」
耳朶を軽く噛まれて、びくっと全身が跳ねた。

「乾、服を…脱がせてくれ」
「あとでいいだろ?」
「邪魔…だ。動きにくい」
喘ぎながら訴えると、乾は低い声で笑った。
「じゃあ、脱がせたら動いてくれるんだね?」
「お前…次第だ」
「自信、あるよ」

全部言い終わらないうちに、乾の指先が手塚の胸の先端を軽く摘んだ。
その場所を中心にして、全身に刺激が広がる。
「あ…っ」
「ごめん。ボタンと間違った」
「そんなわけ…」
声が途切れて先が続かない。
手塚の肩に顎を乗せ、くすくすと笑う声が耳のすぐ傍でした。

今度こそ本当に乾は手塚の服を器用に脱がせた。
ぴったりと背中に直接触れた裸の胸はとても熱い。
腰に腕を回され、強く抱きしめられると硬く張り詰めたものが当たる。
多分、乾はわざとそうしている。
汗ばんだ互いの肌の温度が更に高くなった気がした。

項や肩に口付を落としながら、乾は身体に触れていく。
掌で、丁寧に。
足から腰骨。
脇から胸へと、止まることなく手が動く。

静かな部屋の中には、シーツが擦れる音と、荒い呼吸と、手塚の上げる短い声が響く。
それをいつもほど恥ずかしいと思えないのは、矢張り酔っているからだろうか。

酔っているのはアルコールのせいなのか。
それとも、お前にか。

乾。

呼ぶ声が掠れた。
乾の右手は手塚の前に回る。
身体を硬直させ腰を引くと熱の塊が奥まったところに押し当てられた。
手塚にはどうすることも出来ず、ただ任せるしかない。
シーツを握って耐えていると、乾の長い指が潜り込んできた。

酔っているのは乾も同じなのか。
今夜の乾は普段より更に意地が悪く、大胆だ。
敏感な場所を使ってそれを証明され、手塚は何度も肌を戦かせた。
今、与えられる快感で身体の外側が熱く高まり、過去の記憶が内側を疼かせる。
出口が見つからず、た溜まって行くばかりの熱はますます上昇する。

乾の手の中で達くことに抵抗はないが、今はもっと欲しいものがある。
それに、手塚が欲しいと思っているとき、乾も同じものが欲しいはずだ。
だから伝える言葉は短い一言で済む。

「…乾」
「うん」

差し込まれた指で溶け出してしまいそうになっていた場所に、違うものが入り込んでくる。
嫌になるほどゆっくりと時間をかけて押し開かれて、手塚はそれだけで気が遠くなりそうだった。
もう自分がどんな姿勢で、どんな風に抱かれているのかもわからない。
わかるのは腰骨に食い込む乾の指先の力と、自分を貫く熱。
それ以外は何もかも曖昧に崩れ、頼りにはならない。

鮮明なのは、絶え間なく続く快感だけ。
今はそれしかない。
それでいい。
それがいい。

中の乾の形がわかるほどに締め付けた。
く、と乾が息をつめた。
約束通りに自分から腰を揺らすと、乾は低い声で呻くように笑った。
「もっと。もっと動いて」
できる限りそれに応えようとしたが、意識が飛びかけて力の入らない体ではままならない。
結局、乾の方が痺れを切らしたようだ。

一呼吸して激しい抽送が手塚を追い詰め、背中が弓なりに反り返った。
手塚、と繰り返し名前を呼ばれた。
少しずつその声が遠くになっていき、頭の中が真っ白になった。
後は全部乾に預ければ良かった。



真夜中に乾の腕の中で目を覚ますのは慣れていた。
だが、今日は少し違う。
目を開いた時には自分の腕の中に乾がいる。
手塚は乾の首を抱くように眠っていたらしい。
少し痺れた腕を抜こうとすると、乾がふと首を上げた。

「目が覚めた?」
「起きてたのか」
「うん」
気がつくと、乾の腕はちゃんと手塚の腰を抱いている。
乾は自分で頭を持ち上げて、手塚が腕を引き抜くのを待っているようだ。

「腕が痺れただろう?」
「少し」
「手塚、俺に抱きついて離れないから仕方なかったんだ」
憶えてない?と乾は笑う。
まるで憶えていないが、なんとなく恥ずかしくなって背中を向けると、今度は乾が手塚の背中に手を回す。

隙間無く抱きしめられた背中は暖かく、耳にかかる吐息はとても穏やかだ。
再び戻ってきた静かな夜に、手塚は安心して目を閉じた。


2005.12.24
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エロです。エロが書きたかったの。書けて良かったなあ。

…地下に入れるべきかと思ったんだけど、一応ここに入れときます。
この絵にあわせて描いた絵もあるんだけど、それは別にアップすることにします。