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■INTERMISSION

※ちょっとだけリバっぽい表現があります



性行為が必ずしも生殖のためだけのものではないと言っても、誰もそのことに反論はしないだろう。
メイクラブという言葉で表現されるくらいだから、愛情の表現だったり確認作業だったりするのだと思う。
俺が手塚とやるのだって、何も達くことだけが目的じゃない。
行為に及ぶ前の会話や雰囲気、終わった後の甘い幸福感。
そういうものを全部ひっくるめて気持ちがいいから、セックス抜きの生活は今のところ考えられない。

現に今も、達ったばかりで力の抜けた手塚の気だるい表情を、腕の中に閉じ込めたまま鑑賞しているところだ。
こういうときの手塚はとにかく色っぽくてとても綺麗だ。
汗ばんでほのかに色づく肌の色や、半端に空いた唇から洩れる荒い呼吸。
何度見ても見飽きるどころか、もっと近くで見たくて強く抱きしめてしまったりする。

「乾。…苦しい」
「あ、ごめん」
腕の力を緩めると、手塚はまだ薄い幕がかかったような目で俺を見上げた。
「…あんまり見るな」
「どうして?」
笑いながら問い掛けても手塚は何も言わず、黙って俺に背中を向けた。
その薄い背中にも薄っすらと汗をかいている。

「まさか、今更恥ずかしいなんて言わないよね」
今度は苦しくないように、力を緩めてそっと抱いてみた。
「…俺ばかり顔を見られているのが悔しいだけだ」
「好きなだけ見てくれていいけど?隠してるわけじゃないし」
「そんな余裕を与えてくれているか?お前は」
手塚は少し首を捻って、俺を睨みつける。
潤んだ目でそんなことをしても、少しも効果が無いのに。
むしろ色気の方が勝って、逆にぞくぞくしてくるくらいだ。

「余裕…ない?」
「見てわからないのか」
「そんなに感じてくれてるなら光栄」
「馬鹿」
聞き慣れた捨て台詞を残し、手塚は再び俺に背を向けた。
まったく、かわいいことを言ってくれる。

「じゃさ、逆ならいいんじゃないのかな」
「逆?逆ってなんだ」
「うん。だからね、手塚が俺を抱けばいいんじゃないの?」
「俺が、お前を?」
振り向いた手塚は思い切り眉間に皺を寄せていた。

考えてみたら手塚が戻ってきて以来、やるときは必ず俺が挿れている。
わざわざそうしていいかと尋ねたことすらない。
何時の間にかそれが当たり前になっていて、何も気にしたことがなかった。

「昔はやったことあるじゃないか」
「大昔だな」
「まあね」
懐かしいことを思い出して、俺はついくすくすと笑ってしまった。
学生時代、手塚とそういう関係になったばかりの頃には手塚が俺を抱いたこともあったのだ。
俺が手塚を抱いた回数と比べると、本当に少ない体験ではあるが。

「逆なら、手塚にも多少の余裕ができるんじゃないのかな」
「…そう…だろうか」
「何?気が進まないの?」
「いや、そういうわけじゃないが」
口では否定しているが、どうもあまり乗り気には見えない。

「俺は全然構わないよ。いつでもどうぞ」
これは嘘じゃなく、正直な気持ち。
多分肉体的には挿れるほうが好きだと思うが、手塚とならどんなことでも平気だし、楽しめる自信もある。

「何なら今からやってみる?」
サラサラとした髪を撫でながら笑いかけると、手塚はなんとも複雑な表情で俺を見つめ返した。
「それとも俺相手じゃ勃たないかな」
「そんなことはないと思うが」
「じゃ、遠慮なくどうぞ」
俺は両手の力を緩めて手塚を解放した。

手塚は戸惑うような素振りを見せたが、思い直したように身体を起こした。
そして、そっと手を伸ばし俺の頬に触れる。
感触を確かめるように手を動かして、それから静かに唇を重ねた。
手塚の身体を受け止めていいものか少し迷ったが、今は何もせず任せておく。

次は何をしてくれるのか。
俺はじっと待っていたが、手塚は何もする様子が無い。
しまいには自分から唇を離して、また身体を起こした。
その顔は明らかに困惑していた。

「駄目だ。出来ない」
「ん?何で」
手塚の眉間には最近見た中で一番深い皺が刻まれていた。
「どうもな。右手で箸を持って、左手に茶碗を持っているような感じがする」
「は?」
「…なんだか疲れた。もう寝る」
手塚は言うだけ言うと、さっさと俺に背を向け毛布を被った。
そして二度と振り向かなかった。

手塚。
俺は。
そして、俺とのセックスは。
…箸や茶碗と同レベルなのか。


その夜、俺は中々寝付くことが出来なかった。
明日の朝食は箸を使わないメニューしようと、それだけを思って何度も寝返りを打った。


2005.12.27
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アホ話です。オフリミではなぜかリバを想像出来ない。そんなことを考えてたら、こんなん出来ました。

乾のイく顔を見たがる手塚ってのはいつかまた書きます。絶対書きます。萌えツボなんです(笑)。