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■眼鏡同士 大人編

シャワーを浴びた後、何を着ようか少し迷った。
だが、どうせすぐに脱ぐのだしと思い、結局何も着ずにバスルームから出た。
リビングには誰もいないのはわかっていたが、全裸のままというのも気持ちが悪いので、腰にタオルだけ巻いておいた。

部屋の明かりを消してから寝室のドアを開けた。
ベッドの中には、やはり既に服を脱いだ乾が居た。
「あ、もう済んだの?」
顔を上げた乾は何故か眼鏡をかけたまま。

「…何をしている」
「ん。読書」
乾は新書サイズの本の表紙をこちらに向けた。
ベッドの傍に近寄り、それを良く見ると『遺伝子とゲノム』という文字が目に入った。
「これは仕事に関係でもあるのか?」
「全然。単なる趣味で読んでるんだけど」
乾は笑って答えるが、こっちはそんな気分じゃない。
意味がわからず、つい眉を顰めてしまった。

これからやろうというそのときに、どうして、本など読まなくてはいけないのか。
まったく理解できない。
それほど長い時間を待たせたわけでもないだろうに。
「もしかして萎えちゃったかな?」
ムードがないよね、と乾は軽く笑いながら手を伸ばし、まだ湿った髪に触れた。

今更ムードがどうこういう仲でもないし、元からそんなものを必要とする性質ではない。
とはいえ、こんな状況で済ました顔で本を広げていられるその神経がわからない。
それでいて乾という奴は、一瞬で状況を変えてしまう反則技を平気でつかえる男なのだ。

油断をしていたわけではないが、突っ立ったままの身体を急に引き寄せる腕の力にどきりとした。
少しバランスを崩した身体を支えながら、乾は甘い声で囁いた。
「大丈夫。責任は取るから」
濡れた舌が柔らかく耳朶を舐め上げた。
「すぐその気にさせてあげるよ」

この男が双子座でAB型なんて、出来すぎた偶然だ。
それを証明するように、瞬きするまもなく入れ替わった艶めいた顔に負けるのは、いつも一方的にこちらばかり。
乾の言葉通りに身体はあっという間に熱を上げ、呼吸が乱れる。

いつもより時間をかけた前戯は、恐らく単なる嫌がらせだろう。
こっちの眼鏡はさっさと外したくせに、自分の眼鏡を外さないのも多分同じ理由だ。
甘いムードなんかなくても、すぐにこんなに感じる癖に。
乾はそう言いたいのだろうと思う。

悔しいがその通りだ。

乾の声。
乾の指。
乾の肌。

乾に抱かれることに慣れてしまったこの身体は、こんなにも容易く乾を受け入れてしまう。
そんな自分を薄く笑いながら観察しいてる酷い奴だとわかっていても。
度が合わないことは百も承知で、その眼鏡を取り上げてかわりに自分がかけてしまおうか。
だけど乾なら、少しも慌てずただ微笑むのだろう。
馬鹿みたいに嬉しそうに。


2006.02.27
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眼鏡同士オフリミバージョン。裸眼鏡祭でお塩さんが描いてくださった「裸手塚」が元になっております。お塩さん、本当にどうもありがとうございました。

乾は一瞬でえっちモードに入れる奴だと思う。乾がそうなれば、手塚も自動的にそうなります。

あ、「遺伝子とゲノム」という本は本当に存在します。読んだことはないですが。