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■INTERMISSION2 −戯れ 1−
その日やることを全て終えて、あとは寝るだけという時間。
大抵の場合、先にベッドに入るのは手塚の方だ。
基本的に手塚は規則正しい生活を好む。
就寝時間も起床時間も、特別な理由がない限り大きく乱れることはない。
俺が深夜までだらだらとテレビを見続けているときにでも、手塚はひとりでさっさとベッドルームに引き上げる。
二人で暮らしていても決して自分のペースを変えない手塚の頑固さが、俺はとても気に入っていた。
今日も俺が歯を磨き終えてベッドルームのドアを開けると、手塚は既にベッドの中にいた。
まだ眼鏡はかけたままで、上半身を起こしベッドヘッドにもたれた状態だ。
手塚は俺の顔を見てから、パタンと膝の上の本を閉じた。
そして、手塚がベッドの脇にあるスタンドのスイッチを入れるのを確認して俺が部屋の灯りを落とす。
それが二人の中で一連の流れとして出来上がっていた。
スタンドの柔らかい光がベッドの上だけを明るく照らしている。
最初から俺のために空けてあるスペースに潜り込むと、手塚は自分の眼鏡を外してナイトテーブルの上に置いた。
俺も自分の眼鏡を外そうとしたら、手塚の指がそれを遮った。
「乾」
「なに?」
手塚はじっと俺の目を見ていた。
しばらくそうして見詰め合ったあとで、手塚はそっと俺の眼鏡を外した。
「俺がお前をという話。あれはまだ有効か」
「え?何のことだ」
「いつだったか、お前が言っただろう。逆をやらないかと」
言われてようやく思い出した。
そうだ。
いつだったかそんな話をしたことがあった。
頭の隅っこに押しやられていた記憶が少しずつ蘇ってくる。
「思い出した。言ったよ、確かに」
「で、どうなんだ」
「うん。いつでも有効だよ。ふーん…やっとその気になった?」
俺が笑いながら答えても、手塚はにこりともしない。
かといって、恥ずかしそうな様子も見せない。
この手の話をするときの手塚らしくない冷静さに多少の驚きを感じた。
「今すぐでもいいか」
「俺はいつでもかまわない」
「…そうか」
手塚は一度軽く視線を落とし、すぐにまた俺の目を見つめる。
そして、俺の肩に手を置き唇を近づけてきたが、不意に動きを止めた。
俺はそのときパジャマ代わりのTシャツを着ていた。
手塚はその襟元を軽く引っ張った。
「邪魔だな。全部脱げ」
「わかった」
言われるままに白いTシャツと下に穿いていた膝丈のパンツを脱ぎ捨てた。
手塚も自分の淡いグレーのパジャマをさっさと脱いでいる。
いつもならもっとゆっくり脱ぐのだが、今日はやることが素早いようだ。
4月も後半になれば、裸になってもそう寒くはない。
かえって潜り込んだベッドの中の方素肌にひやりとする。
だが、シーツの冷たい感触は嫌いではない。
それも、これからやる行為のせいですぐに温まるのだろうけど。
「どうする?消す?」
スタンドを指差して聞くと、手塚は消さなくていいと小さな声で答えた。
今夜はどうも珍しいことずくめらしい。
上半身を起こしたままで待っていると、手塚の唇が近づいてきたが、その前にもうひとつ確かめたほうがいいことがあるのに気がついた。
「ゴム、使うか?」
「いらない。挿れるつもりはない」
「あ、そうなんだ」
じゃあ、何がしたいんだ。
そう訊こうかと思ったが、どうせすぐにわかるだろうとあえて黙っておいた。
2006.04.25
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まだ続きます。すんません。終わらんかった…。続きはなるべく早いうちに。
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