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■INTERMISSION2 −戯れ3−
笑い出したいくらい気持ちがよかった。
実際にそんなことをしたら、手塚に何をされるかわかったものではないので今は耐える。
我慢するのは嫌いではないが、場合によっては逆効果になる。
笑いを堪えた分、感覚が鋭敏になって小さく声が漏れた。
手塚が一旦口を離して俺を見上げる。
切れ長の目を少しだけ細めていた。
「いいのか?」
「すごく」
濡れた唇が蠢くのが、ぞくぞくするほど卑猥に見えた。
「今、俺が止めたらどうする?」
「それは…辛いな。仕方ないから後は自分でどうにかするよ」
手塚はわずかに眉を寄せた。
そういえば、今日はこの顔を殆ど見せていなかったことにふと気が付いた。
本当にこのままやめてしまうのではないかと思った。
だが、予想に反して手塚は行為を続けた。
機嫌がいいのか悪いのか、とにかくやることは刺激的だった。
舌と唇と手を巧みに使われる上に、何度も視線だけを俺に向けるのがたまらない。
最後に強く吸い上げられて、あっけなく俺に限界が訪れた。
出る、という間もなく俺は手塚の口腔に吐精してしまった。
全身の力が抜けて、身体が仰向けになる。
呼吸は中々収まらなかったが、腕は勝手に手塚を探していた。
だが、俺が捕まえるより先に手塚はベッドから立ち上がろうとしていた。
俺は慌てて手首を掴んだ。
「…ちょっと待って。どこに行くつもりだ」
「寝る前にシャワーを浴びてくる」
「寝る前って、まさかこれで終わる気か?」
「そうだ。手を離せ」
「嫌だよ。手塚だって勃ってるのに」
「…放っておけばおさまる」
手塚の横顔には汗の粒が浮かんではいたが、表面上は冷静に見えた。
期限でも損ねたかと焦ったが、思い当たる節がない。
ここで逃げられるのは納得がいかないので、俺は意地でも手を離さないつもりだった。
「冗談だろう?何を怒ってるんだ」
身体を起こして両手で掴まえ様としたら、手塚は身体を捻ってそこから逃げようとする。
それを許さず力を入れて引き寄せると、手塚は音を立ててベッドの上に倒れこんだ。
「ごめん」
やりすぎたかと急いで抱き起こすと、手塚は怒った顔で俺を睨みつけた。
だが、その顔はわずかに赤く染まっている。
さっきまでの澄ました顔とは対照的で、隠しきれない感情がそこに浮かんでいた。
可愛い、と言いそうになるのを必死に堪えて、かわりにそっと背中を抱いた。
「怒ってる理由を聞かせてくれないか」
「怒ってるわけじゃない」
「じゃなんであんなことを言うんだ?」
腕の中の手塚は一層顔を赤くした。
「俺が何をしても、お前はいつもと全然変わらない。それが面白くないだけだ」
「え?それが…理由なの…か?」
悪いか、と低い声で言い捨てると、手塚は決まりが悪そうに横を向いてしまった。
「いつもと違うことをしたら、違う顔を見せるかもしれないと思ったの?」
「そうだ。…もういいだろう。離せ」
そんなことを言われた俺が、今ここで手塚を自由にすると本気で思っているのか。
だとしたら、手塚は全然俺のことをわかっていない。
俺は両腕に力を込めて、身動きできないように閉じ込めた。
「馬鹿だね、本当に」
「この程度しか考え付かないんだからな。そう言われても仕方ない」
ふんと悔しそうにつぶやく手塚に、俺はわざと耳元に息がかかるようにして笑ってみる。
「違うよ。そうじゃない」
手塚は黙って俺に抱かれていた。
「手塚は本当に俺がいつもと変わらないと思ってる?」
「…同じじゃないか」
「外れ」
手塚は眉間に皺を寄せて俺を見上げる。
どうやらまるっきり気がついてないということがその表情で伺えた。
「顔に出にくいだけで、しっかりと手塚の目論見通りになってるよ。わからない?」
わからない、と手塚の目が答えていた。
多分手塚は俺をどうにかすることに頭が一杯で、他に目が行かなかったのだ。
最中も俺の顔ばかり見ていたから尚更のこと。
そんな不器用さがたまらなく可愛くて、俺はこれ以上焦らさずに答えを教えてやることにした。
「手塚に咥えられてから達くまで、俺ずいぶん早かったと思わないか?」
「え…?いや…そんなこと…言われても」
予想外の回答だったのか、手塚は少しうろたえるような口振りだった。
「悪いけど、普段の俺はもうちょっと持ちます」
さあっと赤みが増した手塚の頬にこれ見よがしにキスをすると、逃げるように顔を背けた。
だけどそう簡単には逃さない。
ただの戯れに手塚がこんなことをするとは最初から思ってはいなかった。
遊びだとしても、何かきっとそれなりの理由があるだろうと感じていた。
だけど、それがこんな単純で可愛い動機だとは。
単純であるがゆえの一途さに、俺は全面降伏するしかない。
その気になれば、顔の表情は意図的に作ることも出来る。
だけど、この反応はごまかしようがない。
俺は自分の勝利にさえ気づかない鈍い相手に敗北宣言をした。
「本当はもうちょっと味わいたかったんだけどね。無理だった」
手塚は目を反らしたまま、こちらを向こうとはしない。
それに構わずに、俺は手塚の色づいた柔らかい耳朶に唇を近づけた。
「だから、もう一回。今度は俺にやらせて」
「今、達ったばかりだろう」
「準備できてるよ。確かめてみる?」
立てた膝の間に手塚を引き寄せると、とたんに手塚の肩が揺れた。
どうやら今言ったことが嘘じゃないと気づいたらしい。
「手塚だってこのままじゃ辛いんじゃないのか」
すばやく片手を手塚の前に滑り込ませると、くっと唇を噛むのが見えた。
「それにね。俺がいつもと違う顔をするとしたら、これからだ」
手塚が俺に移した熱は既に全身に回っている。
その発火寸前の熱で、俺の理性は蒸発しそうになっている。
一度火が付いたら最後、後はどうなるかわからない。
この火を鎮める役目は、付けた張本人にやってもらうしかないじゃないか。
呼吸を乱し始めた手塚を抱きなおすと、汗でぴたりと互いの膚が密着する。
俺がどれくらい熱くなっているかを直に感じたためか、手塚はやっと観念したように身体を預けてきた。
「灯りは消さなくていいんだよね?」
低く囁くと、手塚は荒い息をしながらこくんと頷いた。
「ちゃんと最後まで俺を見ていてくれ」
「わ…かった」
手塚は掠れた声でそう答えたけれど、俺が唇を塞いだときにはもう両目を閉じてしまっていた。
2006.05.08
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終わったー。よかった。こんな話をだらだら引っ張るのは自分でもどうかと思う。
…といいつつ、本当はこの後を書きたいんですけどね。乾の逆襲。更にエロス方面で。
地下室に持っていかないと駄目だろうか。
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