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■釦

寝る前に少しの間だけ、好きな本のページをめくる。
それは子供の頃からの習慣だ。
長い時間読みふける事は滅多にないが、ほんの数ページだけでも何かを読まないと、スムーズに眠りに入れない気がする。
これは習慣というより癖に近いのかもしれない。
大人になり、毎晩隣に誰かが寝るようになっても、その癖は変わることはなかった。

寝る前にもう一度シャワーを浴びてくるといった乾を待たずに、手塚は一足早くベッドに潜り込んだ。
そしてひとり分のスペースを空けた状態で、好きな作家の小説を読んでいた。
2、3ページ進んだところで寝室のドアが開き、頭からタオルを被った乾が中に入ってきた。

乾はごしごしと頭を拭いているようだったが、特に気にせず読書を続ける。
居場所はちゃんと空けてあるのだし、放っておいてもそのうち勝手にベッドに入ってくるだろう。
そう思って目は活字だけを追っていた。

「失礼」
すっと長い指が伸びてきて、読みかけの文庫を奪い去られた。
黙って顔を上げると、乾は開いてあったページに栞を挟み、静かに本を閉じた。
そして、その本を脇に置くと、見上げたままの手塚の顎をさらにくいっと持ち上げた。

乾は薄く笑っていた。
まだ濡れた髪の毛から落ちた水滴が眼鏡のレンズを濡らしている。
形のいい額にも、同じような雫がいくつか浮かんでいた。
それを拭いてやろうと伸ばした手を、乾は軽く掴んだ。
そして、身体を屈めて唇を重ねてきた。

それだけで、わかった。
今乾が何をしたいか。
だから、ただ黙って乾に何もかも任せることにした。

唇が離れても目を開かないでいると、そっと眼鏡を外された。
頬を滑る掌は僅かに湿っていたが、柔らかい感触が気持ちよかった。
ぎしりとベッドが沈み込み、乾が体重をかけたことを伝える。
身体にかけていた寝具をはがされ、乾に軽く身体を抱きしめられた。

壊れ物を抱くようにではない。
ごく弱い力であっても、乾の両腕は手塚を拘束している。
逃がさないという意思を表すように、乾は何度か手塚の身体を抱きなおした。
逃げるわけなど無いことを百も承知で、そんなことをするのは一種の遊びだ。
その遊びにつきあうことは、ひと月の間に数度ほどあった。

ゆっくりと目を開くと、まだ薄い笑いを浮かべたままの乾と目が合った。
乾の長い指は手塚のパジャマの一番上のボタンを外そうとしていた。
器用なはずの指先は、ひとつ外すのにも長い時間をかけていた。
勿論これも遊びの延長であることを手塚は知っている。

ようやく一つ目のボタンを外すと、乾は楽しげに笑ってからキスをした。
軽く唇を触れ合わせてすぐに離す。
余韻を味わう時間も無い。
そして、二つ目のボタンに取り掛かった。
また長い時間をかけてそれを外し、もう一度手塚に口付けた。

この分だと全部のボタンを外し、着ている物全部を脱がされるまでに一体何度キスされるのだろう。
試しにそう乾に聞いてみると、「数えてごらん」と小さく声に出して笑った。
どうせ、途中から何もわからなくなるに決まっているから、そんな無駄なことをするつもりはなかった。


2006.07.14
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先日のネタの続き。このあと二人は、ねっとりじっくり楽しみます。そーにゅー回数は少ないけど、前後が長い。そんな感じだと思います。←露骨な…。

この人達は月に何度かそういうえっちを楽しむってことで。