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■INTERMISSION Fetishism2

乾と違って、長時間にわたってパソコンに向かうのはあまり好きではない。
段々とキーボードを叩くスピードが遅くなってきていることに気づいて、手塚は手を止めた。
レポートの提出期限には、まだ余裕がある。
無理をする必要もないだろうから、今日はもうここまでだ。
作業中のファイルを保存し、パソコンの電源を落とす。
腕時計を確かめると、10時を回っていた。
リビングからは、微かにテレビの音が聞こえる。
乾が見ているのだろうと思い、手塚もそこに向かうことにした。

リビングに続くドアを開けると、ローソファからはみ出した乾の足だけが見えた。
テレビは付けたままにまっていて、ニュース番組が流れている。
物騒な事件が報道されているまん前で、乾は悠々と仰向けに寝そべっていた。
暢気なものだと呆れながら、わずかに空いたスペースに無理やり腰を下ろした。
乾の目は閉じているが、眼鏡は顔に乗っかったまま。
ソファの前の低いテーブルには、汗をかいたビアグラスが置いてあった。
グラスには、まだ三分の一ほどビールが残っている。

たったそれくらいで、酔っ払って眠ってしまったのだろうか。
「乾」
「ん?」
声の調子は眠そうだが、返事は素早い。
「なんだ。起きてたのか」
「今のところは、うとうとしているだけ」
乾は目を開かずに、唇だけを動かして、微笑んだ。
「すぐにでも寝そうだな」
「うん。眠い」

眠くて気持ちがいい。
少し甘ったれた口調でそういうと、乾はふうっと息を吐き出した。
厚い胸が大きく上下する。
黒に近いくらい濃いグレイのシャツの胸元から除く肌は、対照的に真っ白だ。
酔ったのなら少しくらい上気していてもいいだろうに。
それとも、触れればいつもよりは熱くなっているのだろうか。

このソファはギリギリで長さが足りないが、それでも乾は思い切りよく足を伸ばして寝そべっている。
両腕は頭の下になっていて、後頭部を支えている。
邪魔するものがないのを幸いに、手塚は乾のシャツの中に手を差し込み、そっとわき腹に触れてみた。
ぴくりと筋肉が動いたが、乾自身は黙ったままだった。
触れた肌は、普段よりはいくらか熱いような気がした。
でもこれだけじゃ、よくわからない。

手塚は差し入れた手を滑らせ、腹筋の上に片手を置いた。
今度は、はっきりと温度が伝わってくる。
少し湿った肌は、ぴたりと掌に吸い付くようだ。
乾の顔を見ても、何か感じている様子は、見えなかった。
それがなんだか、面白い。

手塚は一度手を引き抜き、膝をついて乾に覆いかぶさるようにした。
そして、両手で乾のシャツのボタンをひとつひとつ外していった。
徐々に露になっていく胸は、手塚の気のせいでなかったら、さっきよりは僅かに色づいているように見えた。
全てのボタンを外し終えても、乾は目を閉じて静かな呼吸を続けていた。
だが、きっと乾は眠ってはいない。

シャツを大きく肌蹴て、胸の上に掌を置く。
乾の身体は殆ど動かないが、唇が少しだけ開いたようだ。
殆ど力を入れずに手を滑らせる。
胸の辺りは、さっき触れた脇腹よりも汗ばんでいた。
それとも、徐々にそうなってきたのだろうか。
乾に聞いても、答えを教えてはくれないだろう。

手塚は身体を捻ると、テーブルの上に置きっ放しのグラスに手を伸ばし、表面に浮かぶ水滴を指先で掬い取る。
そして、濡れた指で乾の鎖骨をすうっとなぞった。
さすがに冷たいのか、目の前の身体がびくっと揺れた。

滑らかな皮膚に水が染み込んでいく様が艶かしい。
濡れた場所をもう一度指で辿ると、乾がくすくすと笑い出した。
気づくと、両方の目が開いていた。
「触り方が、卑猥だよ」
そう言う乾の眼も、卑猥な色合いで濡れている。

「誘ってるのか?」
「そんなつもりじゃない」
ただ、触りたかっただけ。
乾は目を細めて、にやりと笑う。
嘘をつくなと言いたいのだろう。
信じてもらえなくても、これが本当のことだから仕方ない。

「でも、今その気になった」
「それは嬉しいな」
軽く頭を上げた乾は、自由になった両手で手塚の身体を緩く拘束する。
「俺、ベッドまで移動する気力がないんだけど」
どうする?と乾は耳に息がかかるほど顔を近づけて囁いた。
それだけで、自分の肌がざわめくのを感じた。

「面倒だからここでいい」
「色気のない返事だな」
いつの間にか乾の身体を跨ぐようにして、上に乗っていたのは、知らないうちに誘導されていたからか。
気がつくと、にやにやしていたはずの乾は、もう笑っていなかった。

「両手が塞がっているんだ。俺の眼鏡を外してくれるか」
請われるままに伸ばした手を、ふと止める。
眼鏡よりも先に、硬い線を描く頬を指先で触った。

冷たく見えても、熱い血の通った肌が心地よかった。


2007.05.23
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Fetishismの逆パターン。手塚も結構乾ふぇちです。